2つのイルミネーションに、今年は行くことになっていた。
1つは渋谷で『青の洞窟』と呼ばれるところだ。自分は色では青が一番好きだから、行ってみたいと思っていて、たまたまIも行きたいということになり、行くことにした。
もう1つはみなとみらいの方だが、こっちは2日前に一緒に行くはずの友人が体調を崩したので、無しになった。この友人とは久しぶりに会う予定だったから、結構がっかりした。
渋谷には久しぶりに行く。自分は、あまり人混みが好きではない。そして、本当に渋谷は期待を裏切らないように、人がたくさんいた。
しかし、青の洞窟を目指して歩き出してから少しすると、その人ごみも徐々に減り出した。
途中、スタバで甘い飲み物を買う。しかし、これは失敗だった。お互いに体が冷えて寒くなったからだ。
「やば、寒い」
「ちょっと早めに歩くしかない」
コンビニらしきものがなかった。あったら、温かい飲み物を買えば良かったけど、それができなかったから、速足で歩くことにした。
しかし、自分とIの前に、5人くらいの背の高い10代後半くらいの男の人たちが歩いていた。Iもそんなに歩くのが遅くない。自分は歩くのが早いが、前をその5人に塞がれていた。
しかし、その5人はディズニーストアに、スルッと入っていった。そこが目的だったようだ。
「意外だった。まさかあそこに入っていくとは」
「確かに!」
これは、自分とIの偏見に過ぎないが、結構驚いた。
街路樹には、青い電球がついている。それを目印にして進んでいくと、蒼の洞窟に着いた。
洞窟のように囲われているわけではない。しかし、相当な数の青い電球が、その辺りを青い色に染めていた。離れた場所は確かに上の方すらも青く見えた。
再び人の数が増えていた。
「確かに青くて綺麗だ」自分が言う。
「うん」
「でも、なんだか木が重そうだ」
「木はこれくらいの重さ大丈夫だよ」
自分の言葉にIが返してきた。確かに、これくらいの重さで枝が折れたりはしないだろう。無数の電球の明かりの集合を綺麗だと自分も感じる。なんなら夜景とかも綺麗だと感じてきた。
でも、確かに綺麗だけど、この綺麗さに癒されることは、少なくとも自分は無い気がした。目で見て楽しむだけだ。これはこれで、きっと悪くはないはずだ。
これ以上考えてしまったら、たくさんの自分の中の矛盾を感じるだけになる。今はそれをしに来たわけではないから、とりあえず何も考えないことにした。
気持ちを切り替えて、もう、大いに楽しむことにした。
写真を撮りながら、少しずつ進んでいく。Iとは、合流したり、別々に写真を撮っていたりした。
家族連れや友達と一緒の人たちもいたが、恋人同士ももちろんいる。
Iは恋人がいたことはあるけど、今はフリーだ。そして、自分もフリーだ。
でも、Iは短い期間しか付き合ったことがない。だから、知らないことが多いと思う。
お互いが身も心も求めあってしまうあの感覚………。肌と肌が触れ合う奇跡的な感覚………。
誰かが前に言っていた、男と女は元々1つだったけど、分かれてしまったから惹きあうのだと———そう、それがただのロマンチストの妄想だとしても、それが正しいと思えるような感覚になる。
まあ、体だけの関係とか、興味本位だったり、関わり方が浅かったりするものじゃあ、味わえないかもしれない。そして、Iはまだそんな経験はないだろうと思う。
きっと、男女に関係なく、いや、多少の感じ方の違いはあるだろうけど、あの感覚は男女で同じではないかと思う。
まあ、別に今なくても特に問題はないけど、経験としてはいいものだと思う。
ここにいる恋人同士の中で、何人がそんな感覚を味わっているだろうか?
思っていたよりも、青の洞窟は短かった。終わりのところには食べ物屋がいくつか出ていて、自分とIも少し買って食べた。
「どうする? 実はまだ6時前だよ」
自分は時計を見た。早めに来ただけあって、まだ随分時間にゆとりがあった。
「えっ⁉ 本当?」Iも少し驚いている。
「いっそのこと、みなとみらいにも行く? どうせ行けなくなったからさ」
これは自分だけのことで、Iには関係ない。IはIで、他の友人と数日後に別のイルミネーションに行く予定があることを知っていたが、それはみなとみらいではなかった。
「行こう!」
こういうときのIは割とのりも勢いもいい。
「よし! 行こう」
すぐに電車の時間を調べて、今度は原宿の駅へと向かった。
原宿から電車に乗ったが、渋谷で乗り換えをした方が速かった。でも、Iに品川で乗り換えると言った手前、面倒になってIにはそれを言わないで、予定通りに品川で乗り換える。
品川で東海道本線に乗り、横浜へ向かった。横浜からみなとみらい線で更にみなとみらいまで行った。
みなとみらいで外に出ると、すぐにイルミネーションが広がっていた。やはり街路樹に、今度は青とオレンジっぽい色の電球が取り付けられていた。
「こっちも綺麗だ」
Iは嬉しそうにそう言った。自分も同意する。
冬の、特に今の時期の、綺麗なイベントだ。日本人のほとんどがクリスチャンではないだろうし、キリスト教徒がやるイベントとは、きっと姿かたちが違っているだろうけど、これはこれで楽しめればそれでいい。不可思議だと思ったことはあっても、クリスマスを嫌いだと思ったことは1度もない。
少し離れた場所に、メリーゴーランドがあった。
「なんか、あんなところにメリーゴーランドがある」
「本当だ」
小さな子どもだけが乗っているのだろうと思ったけど、近づいていってみると、男女問わず大人も並んでいた。ルイヴィトンのイベントみたいだ。
Iが乗りたそうにしていたので、自分から切り出した。
「乗る?」
「いいのか?」
「大人も並んでいるからいいんじゃない」
自分とIは、割と並んでいる列の後ろの方へ行った。そこには、綺麗な顔立ちの係の長身の男の人がいて案内をしてくれた。話し方も物腰も丁寧だった。ヴィトンのイメージを損なわないために、よく教育をされているのかもしれない。
しかし、他の係も全部男の人で皆高身長のイケメンばかりだった。さすが高級ブランドだと感心した。
20分くらい時間が過ぎた頃だろうか? 列の後ろの方に車椅子に乗った人と、それを押して付き添う二人の年配の女の人が来た。どうやら車椅子の人(子どもには見えなかった)をメリーゴーランドに乗せたかったみたいだが、この無料のメリーゴーランドは夜の8時までで、既に締め切ってしまったようだった。
赤いダウンを着た車椅子の人は、体の障害が多少あるのだろう。もしかしたら、知的なものもあるような雰囲気に見えた。だからこそ、乗ってみたいと言ったのかもしれない。
「I、あの人たちに代わってあげようか? あの車椅子の人。自分とIの分の二人分だけならメリーゴーランドに乗れるんじゃない?」
Iは気がついていなかったらしく、自分が見た方を見た。
「ああ、いいよ」
Iは快く承諾してくれた。
自分は小走りで、既に列から離れていった車椅子の人たちのところへ向かった。
「すみません。メリーゴーランドに乗りたいのですよね?」
「あ、はい」
付き添っている女の人が答えた。
「彼はメリーゴーランドに乗れるのですか?」
一応、確認をと考えた。
「はい。大丈夫ですけど、女の子です」
「あ、すみません。女性ですね。それじゃあ、自分とあと1人並んでいるので、その分をどうぞ。メリーゴーランドに乗ってください」
「え! そんな悪いです」
「いいんですよ。せっかくですしね」
「ありがとうございます」
「それじゃあ、係の人に断ってきますね」
自分はそう言うと、その人たちを後にして、列の最後尾辺りにいる係の人の元へ再び小走りで行った。
「あの、あそこの車椅子の人たちに、自分ともう1人の分を譲ってもいいですか?」
係の人は、少し驚いた顔をしていた。
「一応、確認します」
自分はあまり気がついていなかったけど、すぐ近くに責任者っぽい人がいて、その人がすぐに話しかけてきた。
「はい。いいですよ」
良かったと思った。車椅子の人たちも、こっちに既に来ていた。
「それじゃあ、自分たちがいたところに並んでください」
「あの、やっぱり悪いですから」
「全然大丈夫ですよ。是非乗ってください」
すぐ近くにいたIも、自分と同じように大丈夫だと言った。
「本当にありがとうございます」
それを見ていた責任者の男の人が、
「皆さん乗ってください。今回はいいですよ」
「いいんですか? ありがとうございます」
結局、両方とも乗れることとなった。が、そのあと、もしかして仕事を長引かせたかなと、そこにいる係の男の人たちに少し申し訳なく思った。
自分とIがメリーゴーランドに乗ったあとに、車いすの人たちも乗った。でも乗るときに、係の男の人たちが4人くらいで乗せていた。
しまった、大変なことになっている————これは自分のせいだと思った。時間的に断ったとばかり考えていたけど、もしかしたら、時間もちょうど終わりの頃だったから、それを理由に車いすの人を断ったのかもしれない。それなのに、自分が余計なことをしてしまって、ルイヴィトンのイメージを壊すわけにもいかず、受け入れたのかもしれない。
すっごく、乗せるのを手伝いたい気持ちになったが、それをしていいはずもなく、自分はただ見守ることしかできなかった。
車椅子の人には、いい思い出になったかもしれないが、係の男の人たちにとっては申し訳ないことをしたと、心底思った。
それでも、なんとかメリーゴーランドは回りだし、それを見届けてから、自分とIはその場を離れた。
その後は、30分ほど歩いて横浜港大さん橋国際客船ターミナルへ行き、ライトのショーを観た。これはIが見たかったと言っていたやつだ。
自分とIは海獣が好きだ。中でもシャチが好きだが、くじらの様な形の光を照らし出してくれるものだったので、それなりに楽しめた。
赤レンガ倉庫には今回はいかなかったけど、他にもいろいろなイルミネーションがあって、結構楽しめた。
このブログを読むことはないだろうけど、ルイヴィトンの係の人たち、すみませんでした。と、ここで謝ってみる。逆に、このブログを読まれてしまうと、自分の顔が割れてしまうかもしれないので、自分としてはあまりよくなかったりするのだが。
気がつくと、Iと一緒に結構な距離を歩いていたみたいだ。自分のスマートウオッチは2万歩を表示していたから。スニーカーでない靴で歩いていたから、足の裏が少し痛くなった。
今日は、予定よりたくさん移動をした。これから電車に乗って、家路に着くとしよう。
【青の洞窟 SHIBUYA】17:00~22:00
期間:2024年12月25日まで
場所:渋谷公園通りから代々木公園ケヤキ並木
電球数:600,000球
【みなとみらいのイルミネーション】16:00~23:00
期間:2025年2月9日まで
場所:グランモール公園
最寄り駅:みなとみらい駅
住所:神奈川県横浜市西区みなとみらい三丁目
電球数:35球
ルイヴィトンのメリーゴーランドはここの横浜美術館前になります。
2024年12月25日までで、時間は11:00~20:00ですが、21日のみ15:00までになります。
【夜の横浜イルミネーション】
期間:2025年3月2日まで
場所:横浜大さん橋国際客船ターミナル
最寄り駅:日本大通駅