ラウラスがいない戦い

kindleの小説出版

僕の心臓が動いていることと、ラウラスに逢えて変わったこと」のサイドストーリーになります。

 僕といつも一緒に戦ってくれている剣のラウラスが姿を現してくれなくなった。水瀬さくらを守りたいという気持ちがあれば剣は、つまりラウラスは現れるということだけど、何が何だかよく分からない。

 僕は、水瀬が怪物に襲われたら、この前みたいにちゃんと怪物に立ち向かうつもりだ。

 水瀬が、僕が死闘していることとか何も知らなくても、それで構わないと僕は思っている。むしろ、そんな恐ろしいことは忘れられた方がいいに決まっているし。

 でも、ラウラスは出てきてくれない。毎日その姿を思い浮かべても、名前を声に出して呼んでも現れてくれない。前は、何も気にすることなくラウラスは僕の前に姿を現してくれたのに…………。

 無理矢理別の場所へ連れていかれる鍛錬で、緑色のスネークと戦ったときに、ラウラスは姿を見せてくれなかった。そして今、またスネークと僕は対峙している。しかも今回は2匹もいる。

スネークは2匹とも牛を丸のみできるほどの口を持つ巨体で、緑色の身体をギラギラ輝かせている。背中からは縦に3列、角みたいなものが生えている。一番大きな角は1メートルはあるだろうか? こんな巨体なのに動きもやっぱりすごく早い。

2匹のスネークは、すぐに僕を襲って来た。そもそも、この鍛錬では、みんな僕に対してものすごく攻撃的だ。

僕から見て左側のスネークが大きく口を開いて僕の頭上から迫って来た。僕は、それを左側に横跳びに飛んでかわす。しかし、かわした先に、そのスネークの先のしっぽの方が僕のまるで鞭のように動いてはたいてきた。僕は、大きなビルに思い切りぶつかるけど、1つ目のビルだけではそれは収まらずに、隣のビルまで破壊した。

ビルの無数の瓦礫が僕の上に覆いかぶさっている。このまま隠れていられないのかとふと過ってしまう。ビルが壊れるほど強くはたかれて、身体中が鈍い音をたてているかのように痛む。もう、動きたくもない。

それでも、僕は生きている。前の僕ならとっくに死んでいただろう。でも、今の僕は生きている。分かっている、元の場所に、自分の家に帰ることもできない。あの2匹のスネークを倒さない限りは。

僕の上の方で音がしてきた。そして、すぐに瓦礫が取り除かれていっていることが分かった。でも、誰かが僕を助けに来てくれたわけじゃない。誰かが親切心を出してくれて瓦礫をどかしてくれたわけでもない。

瓦礫をどかしているのは、僕に攻撃をしたくて仕方がないスネークだ。もしかしたら、僕を食べたいのかもしれない?

瓦礫が取り除かれて、スネークの姿が見えた瞬間に、僕は右手からエネルギー弾を2つ出した。あんなに痛かった身体は、既に回復してきている。ここはそういう場所だ。

僕が放ったエネルギー弾はそれぞれのスネークを直撃した。でも、これくらいじゃ、スネークは簡単にやられてくれない。ラウラスがいてくれたら、エネルギー弾だってもっと威力があったはずなのに…………。

スネークは少しの間だけ体をくねらせた。僕のエネルギー弾が痛かったのだろう。僕は、その間に態勢を立て直す。とりあえず、まだ壊れていない高いビルの上までジャンプしてその屋上に降り立った。

スネークの片方が、僕がいるビルへとその尻尾を叩きつけてきた。今僕がいる高さはスネークよりも高い位置にあるから、僕を落とそうとしているのかもしれない。

ビルは崩れ始める。もう、ここのビル街は本当に滅茶苦茶だ。

僕は、ビルが崩れはじめている状況だったけど、屋上の金属の柵を強引に折り曲げた。直径10センチ以上はある太いものだ。でも、これくらい太い方がスネークには丁度いい。それを更に1メートルくらいの長さにするために余分な部分を力で切り離した。僕の身体はビルが崩れ落ちていくのと一緒に落ちていく。

ビルを破壊したスネークとは別のスネークが、崩れ落ちていくビルの瓦礫と一緒に僕にむけて大きく口を開けた。瓦礫ごと僕に食らいつくつもりだ。いや、僕なんてあの大きな口の前じゃあ簡単に飲み込まれてしまう。

スネークは凄い速さでやってきたけど、僕は大き目の崩れていく瓦礫を蹴って、スネークの攻撃を避けた。

でも、避けた先にもう1匹のスネークが口から液体を放ってきた。僕は慌てて身体を反らす。でも、左足の太ももにその液体が少しだけかかってしまった。

僕の履いていたズボンの左太ももの液体がかかった部分は直ぐに煙をあげて溶け、直ぐに僕にも痛みが襲ってきた。

「うあ!」

 このスネークの液体は、建物とかも溶かすような威力がある。僕にかかった液体は、そのまま僕の太ももの肉を溶かした。

 今までだって、巨大な蛾のストローに足を突き刺されたりしたけど、今回はまた別の痛みだった。あまりの激痛に僕はそのまま下に落ちて行ったが、なんとか右足で着地をした。

 こ、これも治ってくれるんだよね? 

 僕の太ももは煙のようなものがたっている。でも、その方がいいような気すらした。溶けてえぐられたようになった太ももを見たら、精神的にきつい。だって、ここには僕を助けてくれる相手は誰もいないから…………ラウラスさえいてくれたら………。

 そんな僕に対してだって、スネークは甘くしてくれるはずはない。さっき僕に食らいつこうとしたスネークが、再び僕へ向けて大きな口を開けてきた。

 僕は、さっき長さを整えた金属の棒はちゃんと持っていた。それに、僕のエネルギーを込める。棒は僅かに蒼白い光を帯びた。僕は、それをスネークの大きく開かれた口の中へ真っ直ぐに投げ込んだ。

 僕が投げた棒は、見事にスネークの口から入った。その強さにスネークは少し後ろに押された。更に反対側から棒がスネークの体を貫いて、壊れかけていたビルの壁に突き刺さった。

「はあっ、はあっ………」

 エネルギー弾も出したし、今の棒に込めたエネルギーでも、僕の体力は結構落ちてしまった。そして、太ももの怪我の痛みのせいで立っているのもきつい。でも、すぐにもう

匹のスネークが再びしっぽを僕の方に勢いよく振り回してきた。

 僕は、右足だけで上に飛び上がって、なんとかそれを避ける。歯を噛み締めて、痛みに耐えながらそのまま後方に回転してから着地をした。後方に回転したおかげで、スネークとの間に少し距離ができた。できるなら、このまま怪我が治るまで隠れていたい。

 蛇は熱で獲物を察知するはずだけど、このスネークは違う気がする。もしかしたら、僕みたいに気配を感じ取るのかもしれない。僕は、相手が全く動いてなくても気配を感じ取れるようになってきている。僕と同じなら、何処に隠れてみても無駄だということだ。

 スネークの牙は大きく尖っている。あれは僕の身体を簡単に貫くだろう。もしも、ここで僕が死んだらいったいどうなるのだろう? もしかしたら元の場所へ戻れる? それとも、生き返って、やっぱりスネークを倒さないといけない? あるいは、僕はそこで完全に死んでしまって、またあの白い奴が僕の代わりを探すのだろう? そうしたら、さくらにプレゼントを渡してきた先輩になるかもな——————さくらを好きなら、僕よりもしっかりさくらを守ろうとするだろうし————。

僕の胸が軋んだ。何でこんな風な感覚になるのか分からない。今までの耐えてきた鍛錬とかが無駄になるからなのか? 僕の頭には後藤悟と河野樹の顔が浮かんできた。そして、さくらの顔も—————そのさくらの顔は震えながら怯えていた。そう、この前狙われたときの顔だ。

 スネークがビルの瓦礫を僕に放って来た。

「ラウラス!」

 僕は、無駄だと分かっていても叫んでみた。もちろん、ラウラスは出てきてくれない。

 僕は、僕に向かって投げつけられた瓦礫を両手を大きく広げて受け止めた。そして、それを逆にスネークの方に向かって投げた。でも、スネークはサッとかわす。

 僕は、その間にスネークの近くまで移動をして、他の瓦礫をスネークにいくつか投げつけた。そのいくつかはスネークにヒットする。

 もう1匹のスネークをチラリと見てみると、その姿形は消えていた。

「いない………少し時間がかかったけど、倒していたんだ」

 僕は、壊れかけていたビルに突き刺さっていた金属の棒を引き抜いた。いつの間にか太ももの怪我は治っていたけど、それにも気がつけないくらい僕は必死だった。

 再び金属の棒に僕のエネルギーを込める。さっきと同じ様に棒は蒼白い光を僅かに帯びた。

 そこへ、スネークが容赦なく大きな口を開けて僕に襲い掛かってきた。僕は、さっきと同じ様に棒を投げた。でも、それがまるで分かっていたかのように、スネークは棒をかわした。

「させるか!」

 スネークはその巨体を僕にぶつけてこようとしたけど、僕はそれを避けながら、飛んでいく棒に向かって勢いよく飛び上がった。そして、棒を捕まえた。

 棒は、まだ壊れていないビルに突き刺さるところだった。僕は、棒を掴むと身体を翻して、ビルの壁を思いっきり蹴った。そして、少し上の方からスネークの後頭部を思い切り力を込めてスネークを突き刺した。

 スネークはその口元が壊れているビルの下の方に勢いよく押し付けられて、そのまま突き刺さった。

 僕は、すぐにジャンプしてスネークと距離を取る。

「もう、動かないでくれ。お願いだから」

 スネークはぴくぴくしていたけど、それ以上には動かず、その姿は消えていった。

 僕が元に戻りたいと強く願うと、少し変な感じがして僕は自分の家の自分の部屋に戻っていた。いつもと同じ様に、破れていたはずの服も全部元に戻っていた。

 僕は、直ぐにシャワーを浴びに行った。それが終わると激しい空腹を感じていたので、まずカップ麺の焼きそばを食べて、冷凍食品もレンジで温めて食べる。炊飯器には今朝炊いたお米が入っていた。僕は、冷蔵庫に入っているキムチと豚肉で味噌を少し入れて炒め物を作って、それを大きな丼に入れて平らげた。

「何かまだ足りない」

 僕は、玄関で靴を履いて、コンビニへ行って何か買ってこようと思った。

 マンションの1階のエントランスで、エレベーターで降りてきた後藤と会った。

「よう! 翔もコンビニか?」

「よく分かったね? 何か食べるものを買ってこようかと思って」

「まだ食べていないのか?」

 時間は既に午後9時を回っていた。

「ううん。いろいろ食べたけど、何か足りなくて」

「そっか。翔はよく食べるからな。俺はアイスを買いにいくところだ。兄ちゃんとジャンケンで負けたからな」

 後藤のところは兄弟仲がいい。聞いていると気持ちが温かくなる。でも、他の感覚も何処かで芽生える。そして、余計にラウラスが恋しくなる。

 僕と後藤は一緒にコンビニへ向けて歩き出した。

「たまには俺が翔にアイスを奢ってやる」

「えっ? どうしたの急に??」

「お前、まだラウラスが戻ってないからしょげてるだろ? 雰囲気に出ているぞ」

「えっ⁉ 本当に?」

 意外に後藤は鋭い。しかも、ラウラスが現れなくなったことも知っている。

「こういう時は、少しでも人の優しさに触れるといいんだ。だから、奢ってやるぞ」

 別にそんな風に気を遣わなくてもいいのにと僕は正直思った。そんなことをしてもらっても、ラウラスが戻ってくるわけではない。でも————僕の中で嬉しい気持ちが湧いているのが分かった。

「ありがとう。じゃあ、その優しさに今日は甘える」

「そうだ! それでいいんだ」

 急に強い風が吹き抜けていった。

「ラウラス………」

 僕は、その瞬間に小さく呟いた。だって、風が吹き抜けていった瞬間にラウラスを少しだけ感じたから。

 もちろん、ラウラスは現れてくれない。でも、今は後藤の優しさに少しだけ浸ろう。僕は、後藤や河野のことも守りたいのだから、もっと強くなりたい。

ここまで読んでくださってありがとうございました。6月にkindleで出版予定です。本編を是非kindleで読んでください。

 

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