つづきものです。1話目と2話目を読んでない方は、先にそちらをどうぞ!
「う、うわああああああああああぁぁぁ~」
俺は自分のその声に目を覚ました。俺は、ベッドの上で大きな声で叫んでいた。
辺りを見回すと、そこは自分の家の自分の部屋だった。いつもの通り全く変わらない。昨日、新しく買ったばかりのスマホが机の上に置いてあること以外は本当に何も変わらない。
「元の自分の部屋だ。そう、今朝も起きてそのまま朝ごはんを食べに下に行った?」
俺の部屋の窓からはカーテン越しに明かりが差し込んでいる。今日は晴れだ。そう、晴れていた。
階段を上ってくる音が聞こえてきた。その足音は、階段を上り終えるとそのまま少し進み、俺の部屋の前で止まった。
コンコンっとノックをする音が聞こえてきた。
「太一、入るわよ」
母さんの声だった。今日は日曜日だ。高校は当然休みだ。でも、何か変だ?
俺の返事を待たずに母さんは俺の部屋の扉を開けて顔をのぞかせた。そして、俺の方を見ると、少しだけ開けていた扉を大きく開けて、安心したような顔をした。
「何だ、寝ていただけなのね? 叫び声が聞こえてきたからビックリしたわよ」
「あ、うん。ごめん。何か嫌な夢見たみたいで……………」
「起きたならご飯を用意するわね。すぐだから下へ降りていらっしゃい」
「分かった」
母さんは、扉を閉めて行ってしまった。今度は階段を下る音が聞こえてくる。
「夢————そうだ! やっぱり全部夢だったんだ。俺が世界を全部壊したなんて————燃やし尽くしたなんてあるはずがない」
そう、俺は激しい頭痛と視覚的な歪みを感じて、それと同時に自分がいる場所から離れたところからいっきに燃やしていった。破壊していった。別に俺の意思ではないけど、地球上のものがみんな無くなったのは、俺がやったことだと、あのとき確かに分かった。
だいたい変な話だ。普通は自分で制御できない力なら、自分の周りから始まるはずだろ?
「まあ、いい————全部悪い夢だったんだ」
俺は、そう独り言をつぶやくと、ベッドから出た。そのまま下へおりていく。桃花は昨日から友達のところに泊まっているはずだ。
食堂の扉を開けて中に入る。俺の席には既に朝食が用意されていた。今日はトーストにベーコンエッグ、サラダ、コーンスープが用意されている。
俺は、ちらりと食堂の時計を見る。
「まだ9時前だ。あれは確か9時半近くだった」
少しだけ俺は怖かった。また同じことが起こるんじゃないかって思ったから。もしも、実はこっちが夢だったらどうしよう————俺は確か穴に落ちた。それで、夢を見ていて目が覚めたら穴の奥深くにいて、出ることもできなかったら?
「どうしたの? 珍しく深刻な顔をしているのね」
俺にコーヒーを渡しながら、母さんが言った。
「あ、いや。何でもない」
俺は朝食を食べ始めた。トーストは2枚で、1枚目ははちみつが塗ってあって、もう1つはシナモントーストになっている。俺はとりあえずシナモントーストから食べ始めた。
時計の秒針が動く音がやけに鮮明に聞こえてくる。テレビもついていて、母さんがそれを見ている。それでも、俺は時計の音だけが聞こえてきているような気がしていた。
「大丈夫? 汗びっしょりよ?」
「えっ? ああ………」
気がつくと、俺は汗をびっしょりかいていた。でも、時刻は9時半を過ぎていた。俺は、まだシナモントーストを1枚食べただけで、他は何も手をつけていない。
「もしかして体調悪い? お父さんの風邪がうつったのかしら?」
父さんは、昨日の夕方から高熱を出して寝ていた。今日、このあとに母さんの運転で病院へ行くときいていた。
「い、いや大丈夫」
俺は、こう見えても家族は大切にしている。年の離れた妹をいじめたこともない。むしろ、よく遊んでやった。両親にも心配をかけるようなことはしていない。何だかイラっとするような奴に、少し嫌な言い方をすることはあるし、それがきっかけでそいつがハブられたこともあったけど、俺が主導でやったわけじゃない。俺はきっかけになったに過ぎない。
「今日は、友達と遊びに行くって言ってなかった? 大丈夫?」
本当は父さんが風邪をひいているから、俺もうつっている可能性を考えて遊びにいくのもやめておいた方がいいんじゃないかと、昨日母さんに言われていた。でも、それくらいで自由を奪われるのは嫌だったから大丈夫だと言い張った。だから、あまりいい状況ではない。
「大丈夫。なんかさっき夢見が悪かったせいな気がする」
「そうなの?」
母さんは心配そうだ。もっとも、今は俺の体の心配より出歩くことへの心配だろう。
「そうだよ。あんなに叫ぶくらいの嫌な夢だから。でも嫌な感じだけ覚えているけど、内容は忘れた」
「ふーん」
俺は、まだ食べていない朝食を食べ始めた。食べ終わる頃、デザートの果物入りのヨーグルトを母さんが俺の前に置いた。
「食欲はあるみたいだから、きっと大丈夫ね」
そう母さんは言うと、再びテレビの続きを見始めた。
俺は少しホッとしてヨーグルトも全部食べてから食堂を後にした。いつもならすぐに自分の部屋に戻って出かける支度をするところだけど、今日は1階にあるお祖母ちゃんの部屋を覗いた。お祖母ちゃんは俺が覗いたことにすぐ気がついた。
「あれ、どうしたの?」
「ああ、腰の具合は大丈夫かなって思って」
「珍しいこともあるね。でも、今日は調子が良い方で起きていられるんだよ」
横になっていることが多くなっていたお祖母ちゃんは、座って何かを見ていた。
「入っておいでよ。たまにはお祖母ちゃんと話そう」
「あ、ごめん。友達と約束があるんだ」
「そうなのね。それじゃあ、仕方がないね」
お祖母ちゃんのその言い方に少しだけ胸が痛む気がした。いつもならなんともないはずなのに、何故か今日は胸が痛んだ。
2階へ上がり、自分の部屋のドアノブに手をかけた。でも、開けずに先にある両親の部屋へ俺は行った。
扉を開いて中へ顔を覗かせる。ベッドで眠っている父さんの顔が見えた。母さんは昨日の晩から下の和室で寝ているらしかった。風邪がうつらないようにしているのだろう。父さんはぐっすり眠っているのか、俺が来たことに気がつく様子がない。
俺は、父さんの姿を見て少し安心した。そうっと扉を閉めると自分の部屋へ戻る。
「やっぱり全部嫌な夢に過ぎない」
俺は、そう呟いたけど、何故か完全に安心ができなかった。でも、とにかく友達との約束があるから、支度をして出かけた。
駅までは歩いて15分程度だ。昨日は雨が降ってきてバスで帰ったから自転車は駅に置いてある。だから歩いて行くしかない。
見慣れた景色。見慣れた場所。でも、あの嫌な夢の中ではこの全ては違っていた。
「たくっ! 何だってあんな夢なんか見たんだか、意味分かんねえ」
俺がそう言った瞬間に、ふっと目の前で見えている全てが変わった。そう、夢の中で見た俺の家の近所そのままの様子に変わった。
「なっ!」
俺は辺りを見回してみる。ずっと先まで建物らしきものが一切なかった。
「嘘だろ⁉ もう、いい加減にしてくれよ」
ふっと、また辺りが変わった。さっき俺がいた俺の家の近所だ。
「な、なんだってんだ? 白昼夢か何かか??」
そうだ、きっと夢の影響が強くて俺の脳裏が勝手に見えているものを変えてしまったんだ。
俺は、息を大きく吐き出してから、再び歩みを進めた。1歩、1歩何だか足を前に出すたびに意識をしている自分が分かった。そして、20歩目を踏みしめたとき、再び辺りが一変した。
俺は背中に汗をかいていた。何をどうしていいのか分からない。
「フフフフ、これはお前たちの言葉で面白いと言うものにもしかしたら入るのかもしれない」
後ろから声が聞こえてきて、俺はゾクッとした。頭に直接聞こえてきた声とは違う。今度はきちんとした肉声だった。やたらに高い声だけど、女の声でなくて男の声だと何故だか分かる。
その、声の主は俺から少し離れていたはずなのに、俺に近づいてきた。でも、足音がしない。それでも、俺には近づいてきたのが分かった。
俺の頭あたりの高さから、大きな角が1本右側に見えた。俺は目線だけ右側にうつす。その角は、頭の額の辺りから生えているようで、長い毛でおおわれている顔が見えた。その毛の色は薄い水色で、すごく綺麗だけど、何故か不気味に感じずにはいられなかった。
また来週末にこの続きを載せます。楽しんでください。
