つづきものです。1話目と2話目を読んでない方は、先にそちらをどうぞ!
「ユニコーン?」
俺はまるで自分の意思ではないかのように、顔を右側に向けた。そのまま気がついたらその角を頭部に生やしている奴を俺は見ていた。そして、つい口に出してしまったのだった。
「フフフフフ、やっぱり楽しい。この姿で出てきたのは正解だったようですね」
「この姿?」
「そうだ。声もわざわざ作ってやっているのですよ。あなたの耳に響くようにね。その方が好みのように見えたからな」
まるで、本当の姿は違うとでも言いたいようだ。
「違う違う。本当の姿などない。でも今はこれが本当の姿だと思えばいいでしょう」
さっきから、背筋のゾクゾクが止まらない。俺、ビビっているのか?
「ああ、少し迫力を出しすぎていたようだ————これくらいでどうでしょう?」
「あ、あれ? なんだかあまり怖くなくなった」
ゾクゾク感が、かなり和らいだような気がした。
「私は、時間を干渉するもの————とでも言っておくか? だが、お前までそれをやってしまった。しかも、己で分かってもいないとは滑稽だ」
いったい、何なんだこいつは? やっぱりこええ。
「もう少し、面白いものを見せてあげよう」
ユニコーンは一回転したかと思うと、小学生の子どもくらいの大きさに変わった。服装はまるで平安時代の貴族の男のような感じだけど、髪は結ばずにいる。その髪は黒くて長く、かなり艶があるように見える。そして、さらにそいつはくるくるとまるで自分の姿を見せつけるかの様にその場で回った。
「フッ、フハハハハ、生き物とは面白い。しかも人間とは面白い。それに、やはり影響しあう。私がこんな小さく醜く、愚かなものに影響を受けるのが面白い。私が面白いと感じるのが面白い」
「そこまで面白いですかね?」
ゾクゾク感が消えたのもあって、何だかうんざりしてきた。そもそも中二病っぽい奴だ。
そいつは、俺を斜めに見上げてきた。その姿があまりに艶めかしくて、見た瞬間に目が離せなくなった。
「単純で面白い。案外、こういったものが私には合っているらしい」
全然意味不明だ。いったいこいつは何なんだ?
「言ったでしょう。私は時間を干渉するもの————そう思っていればいいのだ」
「お前は、やたらに高圧的だ。でも、そんなことはどうでもいい。さっさと俺を元の場所に戻せ!」
「自分で戻ればいいでしょうに————そもそも、穴に落ちた時にお前が自分であの時間と空間へ移動をしたではないか」
意味が分からない。俺が自分で——————⁉ でも、分かる。そうだ。俺は自分で戻ったんだ。戻りたくて戻りたくて仕方がなかった。もし、あのときに戻れるなら、絶対に世界を燃やしたりなんてしないって思っていた——————そう、だから燃やさずに済んだんだ————だから…………?
「残念ながら、まだそうなるとは決まっていない。我々はどちらでもいいのですけどね。でも、お前がこの地球の表面を焼き尽くし、全ての命を奪った事実は決してなくなりませんよ。それに、お前自身の家族も犠牲になったのですからね。お前はその目で見たはずだ。母親が目の前で炎に焼かれるところを。あれはお前が出したものなのですよ」
「うそだ! そんなことあるものか!! 俺は、家族を大切に思っていた。母さんのことを俺が焼くはずない—————くっ」
俺は、それ以上言葉を続けられずに唇を噛み締めた。知っている、分かっている。あれは俺のせいだって。でも、何故分かるんだ? 何故俺にあんなことができたんだ?
「フフフフフ~、やっぱり面白い。知ってはいたが、お前と関わることでお前が面白いと感じるように、私も感じることができる」
面白いって————俺は何も面白くない。
「お前が今面白いと感じていないのは分かっていますよ。我々は、人間が感じることをもちろん知っているが、自分自身の感覚としては感じたことはなかった」
そいつは、俺のすぐ前に立って、俺の顔を覗き込むように上を向いてきた。再び艶めかしい雰囲気を出してくる。
「フフフ、ほらね。面白い。人間もその他のものも、全ては我々との繋がりがある。それ故に、我々の中にも愚かさがあるのですよ。それが、あまりに取るに足りない小さなものたちのことをそう考えてしまったことや、そのものが持つものを捨て置いたことなどですね」
「全然、言っている意味が分からない。まるで、自分は超越している存在と言っているように聞こえる」
俺は、そいつから顔を背けてからそう言った。そいつは、するっとした動きで俺の傍から離れてニッコリと、でも不気味に笑った。
「超越しているものなんてありません。でも、お前たちからはそう見えるかもしれない」
「わかった。どちらでも構わない。ただ、何でこんなことになったのかを教えてくれないか?」
こいつはよく話す。もしかしたら、口を滑らすかもしれない。
「フフッ、滑らしているのではありません。あえてそうしているのだ。分かってはいるが、お前の反応を実際に見るのもまた面白い」
「俺で、遊ぶな!」
こいつが危険な奴だってことは分かる。でも、凄く腹が立った。
「まだ教えてあげましょう。お前たちの言葉で言う、実験みたいなものをしたのだ。もしくは遊びですね。ちょっとしたことをしただけだ。そう、我々の能力をほんの僅かずつ合わせてこの星にたらしてみた。そう、たらしたという言い方が妥当だと思います。たったそれだけのことだ。たまたま、お前がそれの影響を受けて、それがこういう状況をもたらしたのですよ」
普通に考えると本当に訳の分からなことばかりをこいつは言っている。でも、それが正しいことを言っているのだと、どうして俺は思ってしまうのか?
「それで、どうして俺が———俺だけが影響を受けんだよ」
「それは分かりませんね。そう、あえて分からないようにしたのだから。我々は誰もそのことについて考えなかったし、見なかった。お前たちの言う感覚的なものでも捉えなかった。所詮ただの戯れだ」
ニコニコ笑いながら、さっきほどではないけど、まだどことなく艶めかしい雰囲気をこいつは出してくる。
「今はその姿と雰囲気を好んでいるってことか?」
「好む? 私は何も好んだりはしない。お前たち人間のように何かを好んだりなどしない。根本が違うのだから——————ただ、やっぱり好んでいますね。そもそもこの世界全ては何らかの繋がりがあるのですよ。だから、その繋がりの中で、互いに様々な形で影響をしあっている」
さっきから訳の分からないことばかり言ってくる。
「分からないはずはない。とくにお前はな。我々の持つものの影響は、他の者ももちろん受けている。その性質や考えから、あり方すべてにおいてですね。だから、我々もお前たちのことはよく分かる」
「俺にはお前のことはよく分からない。言っていることも意味が分からない」
「それはそうでしょうね。お前たち人間が持っている感覚や思考なんかでは、分かることがあるはずもない」
「うっ! うわああああああ~」
急に激しい体中の痛みに襲われた。それは頭を最大としている————違う———そもそも体のどの部分の痛みも神経を通して頭で感じるからだ。俺の体は頭以外は、何もダメージをくらっていない。でも、頭が勝手にそう感じているだけだ⁉
激しい痛みの中、思考だけは止まらない。俺は耐えがたい痛みに、頭を抱えて膝を地面につけ、そのまますぐに倒れこんだ。それでも、まるで痛みと思考がかけ離されているかのようだ。
「少し、煩わしくなってきたのでね。でも、よくわかったはずだ」
そうだ————俺には分かる。違いすぎるんだ。違うと言う言葉を当てはめるのが正しいのかさえ分からなくなるほど、俺たちの常識の範疇を超えている。なのに————俺は他の人間よりもそれに影響を受けてしまった————そのせいで世界を滅ぼした————。
この話は、「僕の心臓が動いていることと、ラウラスに逢えて変わったこと」というkindleで出版した小説の世界観を現した小説です。kindleで出版したものとはまた別の雰囲気での小説にはなっていると思います。
「僕の心臓が動いていることと、ラウラスに逢えて変わったこと」https://00m.in/Mfhno
またこの続きを1週間後あたりに出す予定です。よろしくお願いします。
