それでも自分であるということ6

小説

続き物なので、この話より前のものを読んでいない方はそちらから読んでみてください。

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「太一、久しぶりだな」

 俺は、携帯を見ていて下を向いていた顔をあげた。俺の机の前には小学生の頃からつるんでいた健太がいた。

 今は、まだ授業が始まっていない。でも、もうすぐ授業が始まるはずだ。あれ? でも、こいつは俺と同じ高校だったか?

「そうだ。俺はお前と同じ高校なんかじゃない。だいたい、お前のせいで俺は学校も行けなくなっただろ? 忘れたとは言わせないぜ」

 そうだ……………こいつは、確か何かムカつくことを俺に言ってきたんだ。それで、俺はこいつに対する態度を変えて、そのせいでこいつは他の奴とも関わらなくなっていった。でも、ただそれだけのことだろ?

「お前は、そういう奴だよ。無関心きめこむくせに、最悪なことをしてくる」

「なんだよ、俺の関心が欲しかったのかよ」

「なあ———よく、思い出せよ。お前はちゃんと指示しただろ? はっきりとした言葉は使わずに、自分の手は汚さずに—————だから、俺は今嬉しいんだ。お前独りが生き残っているこの状況がな」

 そう言うと、フッと目の前からそいつは消えた。もう、名前すら憶えていない。俺はただ————いや、無関心でいただけのはずだ—————でも? そう、俺は知っていた。あいつがハブられることを。それだけではなく、裏で暴力を受けていたりしたのも知っていた。だけど、別に俺の指示じゃない。俺は、それを聞いて楽しそうにしていただけ————そう、それだけだ。

「あ、あれ?」

 確かに高校の教室にいたと思ったのに—————夢だったのか?

 俺は何もない土の地面に寝転がっていた体を起こした。

「何だって、あんな夢みたんだか…………」

 俺は頭を振った。まだ、夢の続きなら良かった。だって、ここは何もない。家族も友達も、それ以上に生物が何一つ存在しない—————俺が、全てを破壊した。

 俺が立ち上がろうとしたら、急に足元から地面が無くなった。俺は何処かへ落ちて行く。

「う、うわああああああ」

 叫び声をあげて見ても、何処にも響かない。辺りは真っ暗で————でも、急に視界が開けた。開けたと言っても、俺の足元は安定がない。もう落ちている感覚ではないけど、どこか不安定だ。それに周りは変な濁った色で染まっている。

 ドボンという音と共に、俺は水の中にいた。魚とかの生物は全くいない。手足を動かして泳ごうとしたけど、全く動かすことができない。そのまま真っ直ぐに足元から下の方へ俺の体は沈んでいく。

 水中だから、呼吸ができないはずなのに、何故か息が全く苦しくない。ただ、辺りが暗い。俺の体の表面には水がまとわりついている。

「これは、報いなんだ。だから、お前だけが影響を受けて取り残された。お前は、水中でも死なない」

 水の中だから、声なんて聞こえるはずがないのに、確かに耳を通してそう声が聞こえてきた。健太の声だ—————いや、違う? これは誰の声だ?

 俺は目を瞑った。どうせ開けていても真っ暗で何も見えない。

 報いって、意味が分からない。だいたい、人間なんて他の奴に対して何かしらしている。健太だって、俺よりもひどいことを他の奴にしていた————俺よりもひどいやつは5万といるはずだ。それなのに、俺だけ報いを受けるとか意味が分からない。

 俺の体はどんどん沈んでいくようだったけど、そのうち辺りが少しずつ明るくなってきた。目を閉じていてもそれを感じることができた。俺は、目を開けてみる。水中にいるはずなのに、水中で目を開けているような感覚がない。

 ずいぶん沈んで行ったと思ったのに、いつの間にか辺りは暗くなかった。魚の姿も見える—————魚? 生物は全て俺が滅ぼしたんじゃなかったのか? それとも、陸の生物だけなのか?

 俺は、手足を動かした。さっきはまるで動かなかった手足が動いた。そのまま浮上しようと水をかく。でも、いくら上を目指しても届かない————く、苦しい———何でだ⁉ さっきまでは全く苦しくなかったはずなのに。

 俺は余計に必死に水面を目指して手足を動かす。でも、届かない。息がどんどん苦しくなっていくだけだ。だんだん、意識がなくなっていく。

 意識がなくなりかけたとき、俺の頭は水面に出た。

「はあ、はあ、はあ…………」

 本当にいった何が何だか分からない。同じ水中にいたのに、呼吸が苦しい時とそうでないときがある————俺の体は本当にどうなってしまったのか?

 太陽が高く登っていた。周りは明るくて、でも、何も見えない。何処までも水平線と波があるだけだ。陸らしいものは何も見当たらない。

「いったい———どうしろっていうんだよ!」

 呼吸が落ち着いてくると怒りが込み上げてきた。望んでもいないのに、訳のわからない力を手に入れて、随分この状況に振り回されている。

「わっ!! 何だよこれ⁉」

 俺の下の方に何かでかい影が動いていた。魚? クジラか何かか??

 やばい、やばい、やばい!

 俺はその得体もしれない巨大なものに恐怖を覚えた。明らかに俺に近づいてきていた。

 俺は、夢中で泳ぎ始めた。陸なんて見当たらない。船とかそういうものも何もない。俺を狙ってきているなら、俺が逃げ切れるはずがない。

 そんなことは分かっていた。でも、体に恐怖による強張りを感じながらも、俺は必死で泳いだ。泳ぎは得意な方だったから、それがせめてもの救いだった。それに、何故か分からないけど、こっちへ泳いでいけば岸があるような気がする。

 さっきは全く岸が見えなかったのに、少し泳ぐと岸が見えた。

 俺は、思わず後ろを振り返った。俺の下の方も見てみた。でも、何もいない、何もない。

「さっきのは、いったい何だったんだ? 見間違いか?」

 いや、そんなはずはない。あんなにはっきり見えたんだ。

「くそっ! とにかくこんなところから出てやる」

 俺は再び泳ぎ出した。そうして、足がつくようになり、俺は海岸へと上がった。

「砂浜だったのは不幸中の幸いか――――」

 砂浜は砂浜だけど、その他は何もなかった。草1本生えていない。少なくとも、今見える範囲で生物と呼べるようなものは何も見当たらない—————。

「さっきは確かに魚もいたのに—————陸だけいないってことか?」

 着ている服はびちょびちょに濡れていた。履いていたスニーカーも濡れていて、中に水が入っている。

 俺は、スニーカーを脱いで、中の水を捨てた。空は晴れていて、風も吹いている。こんな濡れた格好なのに寒くもない。もうすぐ冬になるくらいの気候だったはずなのに、むしろ少し暑いくらいだ。

 俺は、とにかく歩き出した。

「っとに、いったい何なんだよ…………」

 どんなにムカついても、そのやり場もない。誰もいない。何もない。

 そのうち、日が暮れて夜になった。俺はずっと歩き続けているのに、何故か疲れを感じない。飢えも渇きも感じない。

 俺は夜通し歩き続けた。でも、辺り一面やっぱり何もない。虫すら見かけない。

「だいたい、こんな気候なら虫だっているはずなのに…………やっぱり俺が全て燃やし尽くしたってことなのか? 今のここはその世界なのか⁉」

 俺は、その場にしゃがみこんだ。

歩いたって、どんなに歩いたって誰にも会えない。

「俺は、このままずっと独りなのか…………本当にいったい俺が何をしたっていうんだ!」

 あの女は桃花に会えたら元に戻れるって言っていたっけ————でも、どうすれば桃花に会えるのか分からない。それとも―――――桃花はこの世界の何処かにいて、独りで怖がっているのか?

 そう考えると、早く桃花を見つけなくてはいけない気持ちになってきた。生意気なときもあるけど、桃花は妹として可愛がっている。その桃花が、まだ幼い桃花が怖がっているのは可哀想だ————。

 俺は立ち上がった。

「そうだ、まだ希望があるんだ。それと、俺は力を使わないようにしなくちゃいけない————でも、確か、俺は時間を戻すこともできるほどの力も持っているって言っていなかったか?」

 そうだ! それなら、力のコントロールができるようになれば、時間を戻して、こんな状態にならないようにすればいい。でも、どうやって?

 俺は、その場に座った。少し頭の中を整理したいと思った。そう、確かユニコーンの姿だった奴が言っていた。俺が時間を干渉したみたいなことをだ。だから、全部夢だと思ったとき、あれは夢じゃなくて、時間を俺が戻していたってことだ。

『お前は力を使うな。お前が使う力は俺に影響する』

「何だ? 今のは⁉ 俺、変なことを思った気がする。でも俺が俺のことをお前って思うなんておかしすぎだろ?」

『ああ………少し変える』

「また、自分が変なことを頭の中で思った?」

『お前はおろかで面倒だ。これで分かるだろう』

 勝手に頭で考えていた言葉と思っていたものが、間違いだったと分かった。これは、前にもあった俺の頭に直接響いてきているんだ。でも、前とは違って声も分かる気がする」

『お前の脳が勝手にそう知覚しているだけだ。だが、お前は他の人間と違って分かることができるはずだ』

 そうだ…………俺は分かる。でも、これも駄目な気がする。桃花に会ったあとは、こんな風にもなっていちゃいけない。

『ああ、あいつがお前に力を使わなければと教えたのだったな』

「だ、だいたい、何で力を使ったらダメなんだよ。勝手に俺がお前らに影響するようにして、今度は使うなって勝手すぎだろ」

 俺は、何処の誰とも分からない奴相手に、少し大き目の声で言った。辺りを見回してみても、やっぱり誰もいない。もう、こんな奴でもいいから、普通に話したい。

『お前はくだらないな————そう、本当にくだらないはずなのに、感覚として我もそれを分かる。分かろうともしないのに、分かる。我らは分かろうとしなければ分からないでいられるのにだ。だから、面倒だ。お前が力を使うから我はお前に影響を受けてしまった』

「お前、また訳のわからないこと言いやがって。いちいち俺のせいにするな!」

『お前を封印してやろうか? 我はこの星を好いている。だから、お前が邪魔だ。』

「なっ! 封印って…………」

封印ってどういうことだ? こんな目にあって更にひどい状態に遭うのか?

『それが嫌なら死ね』

 この野郎! 死ぬなんて嫌に決まっているだろ—————でも、このまま1人も嫌だ————俺はいったいどうすればいいんだ。

この話は、「僕の心臓が動いていることと、ラウラスに逢えて変わったこと」というkindleで出版した小説の世界観を現した小説です。kindleで出版したものとはまた別の雰囲気での小説にはなっていると思います。

「僕の心臓が動いていることと、ラウラスに逢えて変わったこと」https://00m.in/Mfhno

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