続き物なので、この話より前のものを読んでいない方はそちらから読んでみてください。
『だから、死ね』
そもそも、俺はこの地球上の全ての生物が滅んだ状況でも生きていた。さっきは水の中で息ができたりできなかったり————俺の体は変わってしまったのか? それとも、全ては現実ではないのか?」
『我がお前を死なせてやろう』
その声はゾッとするものがあった。俺の体は一瞬強張った。
「な、何を⁉」
俺の体は急に何かに包まれた。体全体に圧迫感がある。
お、俺————本当に殺されるのか?
パンッと大きな音と共に、その圧迫感は消えた。
『やはりな。だから、お前は面倒くさい』
「い、今俺がやったのか?」
『お前は生命の危機や恐怖を感じると力を出す。お前の望みは何だ?』
「俺の望み? そんなの今の望みは決まっている。俺の望みは、地球がこんな風になる前に戻ることだ。こんな訳の分からないことに、関わらないことだ」
『いいか、お前は親を殺した。家族を殺した。お前はこの星の生物を皆殺しにした殺戮者だ』
「そんなん、お前らのせいじゃないか‼ 勝手に影響だか何だかしらねーけど、力を与えられて、家族も失って俺だって立派な被害者だ」
『人間はもっと混乱に陥る輩が多いが、お前のそういうもののせいだろうな。だからすべてを形がなくなるまで破壊した。確かに我らに影響はされて力を持ったかもしれないが、破壊したのはお前のせいだ。力をそういう形で表したのはお前だ』
「ふざけるな‼ あの時、激しい頭痛がして、俺は何がなんだかわからずに——————」
お、俺は————知りたくない、分かりたくない。でも———。
『そう、お前は分かってしまう。我らの影響を受けたのだから。我らは分からないでもいられるが、お前は分かることから逃れることもできまい』
そうだ————俺のせいだ。分かりたくないのに、それなのに分かる。でも、考えてやったことじゃない。望んでやったことじゃない————。
『望まずともお前のせいだ————だからお前は死ね』
こいつは、俺を殺したがっているのか? そんな………死ぬのは嫌だ‼
「桃花! 桃花に会ったら元に戻るんだろ? だったら会わせてくれよ。それで、元に戻って、力なんか使わないから」
『お前はその桃花に対しては一番守りたいという気持ちを持っている。だから、桃花の存在はまだある』
「本当か? それなら、桃花に会わせてくれよ」
いや、こいつが素直に会わせてくれるはずがない。でも、なんとかこいつから逃れて桃花を探すんだ。
『桃花を探しても、見つかるはずもない。その体はほろび、意識のみ囚われている』
「意識って—————まさか、苦しんでいるのか?」
『お前たち人間にとってはそうと取れる。怯えて泣き続けている』
体がないのに、どうやって? 意識だけあるって、それも意味が分かんねえ————でも、何とかしてやりたい。
『桃花を助けるには、お前が死ね。お前が死ねば桃花は解放される』
「お前は、どうしても俺を殺したいようだな————そんな奴の言っていることを信じられる訳ないだろ」
『勝手にすればいい。だが、お前には分かっているはずだ。我はお前を死なせてやろうと言うのにな』
そうだ————分かっている。こいつの言っていることは正しい。でも、もしかしたら、こんな訳の分からない状況だし、俺の正しいとかの感覚もこいつにコントロールされているのかもしれない。でも、それなら、俺の全てはこいつらにコントロールされる可能性もある————何が自分の中の本当の意識や意思なのか—————いや、でも、合っていると思うことを信じるしかない。
「俺は死ぬしかないのか?」
『桃花を思うならな。あるいは、独りでずっといるのがいやであるならな』
独り—————俺はずっと独りでいなくちゃいけないのか? それか死ぬか?
「別に今すぐに死ななくてもいいだろ? どうせそのうち死ぬときは来る。もう少し考えさせろよ」
『お前は簡単には死ねない。我らの影響があるからな。だから、今我が死なせてやろうとしている』
「だから、少し時間をくれよ。自分で死ねなくても考えたり頭の中を整理する時間くらいくれよ」
『ならばもうよい。それに付き合う気はない』
ふっと、今俺と話をしている奴の気配みたいなものが消えそうな感覚がした。俺はものすごく慌てた。
「ま、まてよ。いや、待ってください」
分かる、分かるんだ。このまま俺はずっと独りで死ぬこともできずに、狂うこともできずにいなきゃいけなくなるって。
俺が叫ぶように懇願すると、気配は戻ってきた。
『なら死ね』
そう聞こえたと思ったら、俺の体は急に宙に浮かび上がり始めた。それと同時に体の中心辺りから違和感を感じ、体全体がパンパンになって膨れ上がっていく。それでも、俺は更に高く浮かんでいく。
いったい、何処まで浮かぶ? 死にたくない! やっぱり死にたくない‼
俺が強くそう思ったとき、目の前で俺が出した炎で母さんが燃え始めた光景が脳裏に浮かんできた。見た時は僅かな時間で燃えて消えてしまったのに、やたらゆっくりで—————。
俺の体は更に膨れ上がり、かなりの高さ、建物の10階くらいの高さで急に落下を始めた。
膨れ上がった顔が下になり、どんどん落ちて行く。
このまま、地面に衝突して死ぬのかと思った瞬間に、更に体が膨れ上がり、俺の体はバンッと破裂した。それでも、俺の意識はあった。体の破裂した嫌な感覚を痛みと共に感じた。自分の体がぐちゃぐちゃに、細かくなって辺りに飛び散った。それは、地面に落ちて行って、俺の体液は時間と共に地面が吸収していった。
こんなになっても意識が残っている。体が無くなっても意識だけあるってこういうことなのか—————何とも言えない虚しさや孤独を感じていると、だんだんに俺の意識でさえ遠のいていった。
「太一、どうしたの? 大丈夫?」
母さんが、俺を心配して声をかけてきた。
「か、母さん………」
「何だか辛そうね。もしかして、お父さんの風邪がうつったのかしら?」
俺は、家の食堂にいて、テーブルの椅子に腰かけていた。俺の前には食べかけのトーストにベーコンエッグ、サラダ、コーンスープがテーブルに置いてある。
俺は、ちらりと食堂の時計を見る。まだ9時前だ。あれは確か9時半近くだった——————えっ⁉ 俺はまた戻ってこられたのか?
俺は、母さんの顔をジッと見た。
「どうしたの? 急にジッと見てきて」
母さんは不思議そうに言った。
「い、いや………ごめん。何でもない」
そうだ————今までのは夢なんかじゃない。俺には分かる。分かりたくもないのに分かる。夢だと思っていられたら良かったけど————でも、そう思ってまた同じ様になるのは嫌だ。
「どうしたの? 珍しく深刻な顔をしているのね」
俺にコーヒーを渡しながら、母さんが言った。
「あ、いや。何でもない」
前に戻ったときも同じことを言われた気がする………。
目の前にある俺の朝食————もう、二度とこんな風に食べられないと思った。
俺は、まだほとんど残っている朝食を勢いよく食べ始めた。
「大丈夫? 汗びっしょりよ?」
「うっ、違うんだ————」
俺は声を詰まらせた。急に感情が高ぶってきたからだ。
「もしかして体調悪い? お父さんの風邪がうつったのかしら?」
「違う。でも、ご飯が食べられて良かった」
「そうなの? 今日はちょっと変ね? まあ、ご飯を喜んでいるならいいわ。それより、今日は、友達と遊びに行くって言ってなかった?」
「あっ、うん————確かにそうだった————でも」
桃花に会わないと。もしかしたら、桃花に会えるかもしれない。
「今日は、友達とは会わない。それより、桃花は?」
「桃花は、昨日からお友達の家に泊まりに行っているわよ」
「ああ、そう言えば————」
今度はいつどこでどうなる?? おかしなことになる前に桃花に会わないといけない。
「桃花はいつ帰ってくる?」
「夕方とかじゃないかしら? 連絡が来たら迎えに行くことになっているの」
夕方————そんなに待てる気がしない。そこまでこんな気持ちでいるなんて————。
「もっと早く桃花帰ってこられないかな?」
「そんなこと言うなんて、いったいどうしたの?」
ああ、さすがに変に思われたかもしれない。どうすればいい?
「俺、今日は予定空いているんだよね。桃花、観たがっていた映画あったじゃん。今日なら俺が連れていってやるよ。だから、桃花に連絡してみてよ」
小学2年生の桃花は、まだ自分の携帯も持っていない。だから、俺は簡単に連絡をすることができない。
「う~ん。そうね、一応きいてみるわね」
母さんはそう言うと、自分の携帯を取り出した。おそらく桃花が泊っている友達の家の親に連絡をしたのだろう。
俺は、朝食を食べ終わってもそのまま座って待った。もし、桃花が映画に行くと言わなかったら、相手の家に行くしかない。このままじゃ、また何が起こるか分からない。
そう考えると今までにないくらいに緊張が走ってきた。
少しすると、母さんの携帯が鳴った。それに気がついた母さんが確認する。
「ああ、桃花映画に行きたいですって。一緒に泊まっている子も午前中に帰るみたいで、お母さん迎えにいかなきゃだわ」
「あ、そうなんだ…………」
「どうしたの? すごい安心したような顔しているけど?」
「い、いや、何でもない」
「おかしな子ね。本当に今日は少し変だわ」
そう言って、母さんは軽く笑った。何だかその顔を見たら凄く安心した。
場所は知っているから、桃花を迎えに行こう。ここで待っているだけなんて耐えられそうにないから。
「母さん、桃花は俺が迎えに行くよ。母さんは確か父さんを病院に連れていくんだろ?」
「あら、そうしてもらえると助かるわ」
「じゃあ、そうしよう」
俺は、支度をしに自分の部屋へ向かった。
自分の部屋へ入ると、急に吐き気と涙が込み上げてきた。実際に吐きはしなかったが、気分が悪い。
「俺は———俺は————」
俺って、こんな奴だったか? 変な目に遭わされて、変わってしまったのか? 違う、俺じゃない。俺のせいじゃないけど————やっぱり俺のせいだ。
最悪の気分になりながら、それでも支度をして家を出た。
家の外には他にも家があって、植物もあって————全部が元通りになっている。走って桃花を迎えに行こうかとも思ったけど、それも怖かった。
体に緊張を走らせながら、俺は道を進んで行く。桃花の友達の家は近くだったから、すぐに着いた。でも、まだ緊張が走る。いや、緊張は強くなってきている気がする。
「あ、お兄ちゃん。映画嬉しい」
桃花は荷物を持ってすぐに出てきた。無邪気な顔で笑っている。
「桃花………」
これで————助かったのか?
ドクンっと俺の心臓が脈打つのを強く感じた。それと同時に、辺りが急に燃え始めて、真っ暗闇になった。そして、目の前にいたはずの桃花は、血だらけになって、ふらついている。全身が焼けただれていて、皮膚が剥がれている部分すらある。右腕が変な方へ曲がっている。綺麗に結ばれていた長い髪の毛は、ぐちゃぐちゃになり、物凄く僅かになっていた。
でも、桃花以外の周りのものは何も見えない。真っ暗で見えないのか、無くなってしまったのか…………?
「も、桃花————」
どうしてだ? 俺は生命の危機も何も感じていなかったのに———知らない間に力を使ったのか?
ふっと眩暈がする気がしてよろけたときに目を瞑った。瞬きするくらいの一瞬で目を瞑り、目を開けた。すると、周りが全部戻っていた。目の前には桃花がいて、楽しそうにしている。
「お兄ちゃん、どうしたの? 行こうよ。早く映画に連れてって」
「あ、ああ————分かった」
ああ、これから俺はこんな光景を何度も見るかもしれない。でも、力は、使わない。もう、失ったりしてたまるか———。
今回で最終回になります。ここまで読んで頂いてありがとうございました。
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