高校のクラス

kindleの小説出版

僕に心臓が動いていることと、ラウラスに逢えて変わったこと』のサイドストーリー

 学校という世界は本当に残酷だ—————独特の世界があり、精神を蝕まれる場所でもある。

 クラス内でも大概はいくつかのグループに分かれる。でも、僕はいつもどのグループに属することもない。

 高校に入学したてのときは、明らかに陽キャでないタイプが僕にも話しかけてきたりした。僕も適当に返答をする。だけど話が弾むはずもない。僕自身がそれを望んでもいない。誰かと仲良くするよりも、独りで目立たないようにしていた方が楽だからだ。

 前は僕にも友達がいたことがあった。でも、僕がいじめのターゲットになると、巻き込まれるのが怖かったのか、僕から離れていった。それでいいと思いつつ、胸が軋んだ。

 高校生になって、僕に少し話しかけてきた奴らも、すぐに他のところへ行った。それでいいと思った。どうせ、そんなものだから。でも、前ほどではないけど、やっぱり軋むような気がしてしまった。

 クラスの担任は、僕がいつも独りでいることを分かっているだろうけど、特にそれ以上の問題があるわけじゃないから、見て見ぬふりをする。そもそも、僕には騒ぎ立てたり、味方になってくれるような家族すらいないから、教師からすれば楽なもんだろう。それでいて、成績も悪くなく、他の問題も起こさないから、放置する生徒として適しているのだと思う。

 苦手な奴はいっぱいいる—————陽キャな奴は男女ともに基本的に苦手だし、絶対に関わりたくない。まあ、心配しなくても関わることもないはずだ。

 

 最近、クラスの女子の状況が少し変わった。三人のグループでいる中に亀裂が入ったらしい。この三人は陽キャでもない。でも、そのうちの一人が確実にハブられている。聞こえてきた話によると、あとの二人のうちの一人と少し言い合いをしたらしい。それでこの結果だ。もう一人は、喧嘩したわけでも言い合いをしたわけでもないのに、簡単にハブる。

 そして、独りになった女子は、昼はいつも何処かにいっていて姿が見えなくなった。それも、ほんの二日間くらいで、すぐに学校に来なくなった。

 みんな大して関心を寄せない。クラスメイトの一人が来なくなっても関係ないのだから。もちろん僕もそのうちの一人だ。僕は、ただ目立たなく過ごすことができたらそれでいい。

 昼休み、僕は、自分の机のところで買ってきたものを食べる。運よく、僕の周辺の席はこの時間みんないなくなっている。もちろん、少し離れた場所ではいくつかのグループが作られていて、楽しそうにご飯を食べている。

「ねえ、金井さん最近ずっと休んでいるね」

 水瀬さくらの声が聞こえてきた。

「ああ、そうね————さくらは休んでいたから知らないかもだけど、何かあったみたいよ」

「何かって?」

 一緒に昼を食べている女子の何人かが目と目を合わせてから水瀬を再び見た。

「なーんか、早川さんと喧嘩したみたい。それで、独りになって学校もこなくなったのよ」

 こう応えたのは、佐々木奈子だ。いつも水瀬さくらと一緒にいる。

「そうそう、さくらはあの辺りは休んでいたもんね。金井さんが休むようになってから来たでしょ」

 葉山美咲は、隣のクラスの女子だ。

「私は、風邪こじらせちゃったからね————でも、それじゃあ、金井さんは体調を崩しているんじゃないんだね」

「そうなんじゃないの?」

 水瀬さくらは佐々木奈子の方を見た。

「違うのよ。うちらもお昼とか誘おうかって言っていたら、来なくなったからね」

「そっか————」

 別に聞き耳を立ててなくても、クラスの会話は勝手に耳に入ってくる。でも、水瀬たちと離れたところに座っている二人組————話題の中心になっている金井をハブった二人は、明らかに聞き耳をたてていた。でも、話題が他に映るとまるで安心したかのように、二人で話を始めた。

翌日、僕が学校へ行くと、金井が登校していた。すぐ近くには、水瀬さくらや他の女子たちがいた。金井は明らかに緊張した面持ちだったが。

水瀬たちと金井は、挨拶程度くらいはするのを見かけていたことはあったが、そこまで仲良くしていたようにも見えていなかった。

そんな相手といきなり一緒にいるのはきついんじゃないのか?

水瀬さくらは、誰にでも優しいのだろう? こんな僕にでさえ、目が合っても嫌な顔するどころか微笑みさえ浮かべている。でも、今回のことはどうなんだろう? 僕にはただの偽善者に見える。

そもそも、水瀬たちのグループは人数も多めだし、明らかにこのクラスの中で強者に入る。逆に金井がいた三人組は弱者の方だ。だから、金井を除いた残りの二人は明らかに居心地が悪そうにしている。

クラスの中の強者が弱者に手を差し伸べる…………自己満足だろう。でも、別に僕に関りがあるわけではない。ただ、水瀬さくらに対してのイメージが少し嫌なものになった。

僕がこのクラスの誰かに悪いイメージを持とうが何しようが、誰も気にも留めないだろうけど。

四時間目の体育の授業が終わって戻ってみると、クラスの雰囲気が変わっていた。金井が楽しそうに笑っている。朝感じた緊張した感じもない。水瀬さくらたちと一緒にいて楽しそうだ—————金井は適応能力が高いみたいだ。

そのまま、昼も金井は水瀬たちと一緒に楽しそうに過ごしていた。途中、男たちも混ざって楽しそうに笑っていた。

そこに入っていないのは、僕だけではない。他の男も入れていない奴は当然いる。陽キャは陽キャたちと仲良くなっていくのが、クラスの中の自然の流れなのだろう。でも、金井は陽キャでもなかったはずだ。もしかしたら、水瀬さくらの柔らかい雰囲気で溶け込みやすくなったのかもしれない。

少しすると、水瀬のグループと金井たちは教室を出ていった。お昼を食べ終えた僕は、本を取り出して読み始めた。

何かが、僕の背中に当たってきた。大して痛い訳ではない。さっきから二人の男子が僕の後ろの方で何かを言っていた。だから、何かしてくるのかもしれないと思った。

こういうことには慣れているけど、別に嬉しいわけではない。この教室でもこれが初めてではない。僕に嫌がらせをして、自分の何かのうっぷんでも晴らしているのだろうと思うけど、本当は僕に関わらないでほしい。僕の願いはただそれだけだ。それでも、自分よりも下だと思う奴で、自分のストレスを解消することをする奴がどこにでもいる。

僕は、少しも身動きしない。何もされていないかのように、何も気がついていないかのように振舞う。それに腹を立てるやつもいる。そういうのは厄介だけど、それでも、関わらないようにしか僕にはできない。

「おい! お前らやめろ!!」

 大きな声が、僕の背後で響いた。僕は思わず体をビクつかせる。僕は声の方を見た。見なくても声の主は分かっていた。この声は僕に向かって言ったわけでもないことは、分かっていた。それでも、急に大きな声が聞こえたから驚かずにはいられなかった。

 僕の背中を時々的当てかわりにしていた二人の男たちもビクついたのが、背中越しでも伝わってきた。

 声の主は先生とかではない。さっき教室を出ていったと思ったのに、すぐに戻ってきた後藤悟だ。後藤は柔道部で体もごつくて大きい。そして、明らかな陽キャであり、このクラスでの強者だった。

 的当ては止められた。後藤は静止の言葉だけ発すると、何かを自分の席に取りにいって、またすぐに教室を出ていった。それでも、その後も的当ては行われなかった。

 別に誰かに助けてほしいと思ったわけでもなかったけど、今回は助かった。面倒なことは避けたいし、関わってきてほしくなかったから。

 気が少し楽になって顔を上げると、河野樹と目が合った。

 河野樹は、顔が良くて目立つ奴だ。後藤悟とも仲がいい。だから、こっちを見たのかもしれないけど、絶対に関わりたくない人種だ。そんな河野と目が合ったのは初めてで、僕はすぐに目を逸らした。

 参った————こんなことで、もしも変に目をつけられたらたまったもんじゃない。頼むから、僕には誰も関わってこないでほしい。

 でも、その後は何事もなく一日が終わって、僕は心底ホッとした。

 家に帰ると猫のミャアが僕の足元にすり寄ってきた。僕はミャアを片手で抱き上げてソファに座る。

 僕の他は誰もいない家。数年前はお祖母ちゃんがいてくれたけど、今は一人暮らしだ。でも、お金は父親が振り込んでくれるから、慣れてくるとかなり気楽さもある。それに、今はミャアもいる。

 誰にも煩わされず、誰にも関わらないミャアとの暮らし。この家の空間は嫌いではない。むしろ家に帰ってくると安心する。

 

 気がつくと、僕はソファの上で横になって眠っていた。隣ではミャアも一緒に寝ている。

 僕が動くとミャアも気がついて、ソファから飛び降りた。ミャアはそのまま水を飲みに行く。僕ものどの渇きを感じて冷蔵庫を開いて、ペットボトルの水を中から取り出して飲んだ。

 明日も学校に行かないといけないと考えるとうんざりする。クラスの中で何かの変化があっても、僕には関係ない。関わりたくもない。まだ、高校生活は始まったばかりだ。まだ、一年生の一学期も終わっていない。

「お祖母ちゃん、ごめんなさい」

 僕は小さな声で呟いた。お祖母ちゃんは僕に言い友達ができることを望んでいた。だから、高校も大学も行くと約束をさせられた。だから、僕はせめて高校と大学を通うことだけは果たそうと思っている。でも、生前のお祖母ちゃんの僕への本当の望みは、叶えることを僕はできない。それに申し訳なさを何処かでいつも持ってしまっている。

 水を飲んでから、僕が置いたご飯をミャアは食べていたけど、あっという間に食べ終えた。ミャアは僕の方を見上げている。僕は、ミャアを両手で抱きあげた。

「ミャア、できたらずっと一緒にいてよ」

 ミャアは猫だ。僕が突然の事故や病気にでもならない限り、僕より先に死んでしまう。でも、何となく————そう、何となくミャアはずっと生き続けるようなそんな気がした。そんな気がしたあと、それは単なる僕の希望に過ぎないから、辛い気持ちになった。

 翌日、空気圧の重みを感じながら、それでも学校へ行く。教室に入ると何だか昨日と違っていた。

 あ、また雰囲気が変わっている…………。

 金井と初めに一緒にいた残りの二人も、水瀬さくらたちと一緒に楽しそうに話をしていた。もちろん、金井も一緒だ。

 陽キャであり、強者である者は何でもできるんだな————僕は、自分の足元を見ながらそう思った。

 

 この教室で独りでいるのは僕だけだ。それを僕が好んでいるっていうのもある。だから、これでいい。僕は、このままがまだましなのだから。今の僕はこれを望んでいるのだから………。

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これはkindleで出版した『僕の心臓が動いていることと、ラウラスニ逢えて変わったこと』のサイドストーリーです。本編に興味がある方はkindleで読んでください。

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