スカイダイビング体験

人生行動記

 自分は、前からやりたいと思っていたスカイダイビングの体験にチャレンジをした。

 知人Uと知人Iと知人Aと共にだ。自分(C)が言い出しっぺで、数ヵ月前にこの話を持ち出し、秋頃に決行に移すのがベストと話し合った。何故なら、冬は寒すぎるし夏は暑い! 特にこの頃の夏は異常だ。その上、春は知人Aがひどい花粉症だから秋と言う訳だ。

「さすがに早すぎね?」知人Uが言った。

 そう、スカイダイビングの体験の為に来た、栃木県の藤岡の待ち合わせ場所に着いたのは、1時間も前だったからだ。

「まだ早いし、ドライブでもしよう」そう言ったのは、知人Yだ。

 スカイダイビングの申し込みをしたときに、待ち合わせの1時にはその場所を出発するとあった。体験自体は2時からで、ここから車で移動となる。体験スクールの車の後について移動するという。

 ここ、栃木県は、自分たちが暮らしている場所から、車で高速を使って2時間から3時間かかる。混んでいたらもっとだ。そのために、かなり早めに家を出たのだった。

「あ、飲み物もうないから買いたい。コンビニいこう」

 知人Iは、残り僅かなペットボトルのお茶を飲みほしてから、そう言った。

 別に何処へ行く当てもなかったので、自分としてはIの言うとおりに、まっすぐにコンビニへ向かった。

 コンビニに着くと、皆トイレをつかわせてもらい、飲み物を買った。このまま、また戻ってもあと30分待つことになるなと思うけど、行く先を決めるのも面倒だ。

「もう、さっきのとこ戻っていいかな? あそこで待とう」

 自分の言葉に、意外にも、あとの3人は文句も言わず頷いたので、再び待ち合わせ場所へ戻った。

 待ち合わせ場所に戻って少しすると、他にも何台かの車の姿が現れた。

「あれ、同じじゃん?」

「だね」

 しかし、待ち合わせの時間になっても、スクールの車は現れない。もしも、他の車が全くいなかったら、何度も確認したはずの待ち合わせ場所が、間違いだった可能性を強く考えていただろう。

 そして、5分ほど遅れて、タントの車が現れ、中から若い小奇麗な女の人が出てきた。少し気だるそうな様子のその女の人は、真っ直ぐにこちらへと向かってきた。自分はそれに合わせて車の外に出る。

「お名前よろしいですか?」

「あ、Cです」

「4名様ですね」

「はい、そうです」

「では、私の車についてきてください。まず他の方の確認を行いますので、その後にお願いします」

 淡々とした口調でニコリともしない女の人は、他の車の人たちにも話しかけてから、自分の車に乗り込んで車を発進させた。自分はすぐにその後へついていく。

 最初は、細めの道をゆっくり目のスピードでタントは走っていく。すぐに更に車1台が通れるくらいの細い道に入った。しかし、そこからスピードが何故か上がった⁉

「やばい、急に速度上げだした。うける」知人Iは少し面白そうにそう言った。

 その両側が茂みに覆われている細い道の先に、オレンジ色の車止めみたいなものが両側にあった。その2つの間を、タントは何事もないかのように通り抜けて道を少し下っていく。

「何だ! これ、この車通れんの?」

 驚いた様にUが言った。こちらが乗っている車の車幅は、タントよりもあるからだが、自分としては、通れると判断をし、そのまま後に着いていった。

 タントは、下ったところで待っている。車をタントの後に停車させて後ろを振り返ると、他の車が手こずっている様子が見えてきた。

「やっぱり、ここで遅くなるって分かってんだな」自分の言葉に皆が頷いた。

 他の車たちがやってくると、タントは再び動き出した。また、結構なスピードだ。

「明らかに、ここの速度を違反してんじゃないか?」

 そう言いながら、そのすぐあとについていっている自分が運転している車も、違反者だと気がついて黙る。

「うける~」その自分の様子にAがそう言った。

 自分はそのAを華麗にスルーする。

 更に少し先でタントの車が停まり、中から先ほどの女の人が下りてやってきた。それに合わせる様にして、自分は車から降りた。

「あのヴォクシーの横に、つけてもらえますか。そのあと、トラックのところまで、行ってください」

 右側の方にヴォクシーの車が停まっている。自分は直ぐに車に再び乗って、ヴォクシーの隣に車をつけた。

 4人とも乗ってきた車から降りる。確かに、トラックはあるが、1台ではない。とりあえず、一番近くのトラックまで行く。そのトラックの後ろの方まで行くと、そこにいた、2人組が話しかけてきた。

「スカイダイビングで、来た方ですか?」

「あ、はい。そうです」直ぐに自分は答える。

「奥の方のトラックまで、行ってもらっていいですか」

 自分たち4人は、言われたとおりに奥のトラックまで行った。

 一番奥のトラックは大きいもので、運転席を前に、右側面と運転席の後ろ部分以外は四方が開かれていた。そのトラックの荷台には、テレビが運転席を背に置いてあり、その前にいくつか椅子が並んでいる。更にその後ろの奥の方には、ロッカーがいくつかあった。

そのトラックと少し離して、もう1台同じくらいの大きさのトラックがあり、やはり荷台は開かれていた。そのトラックには、つなぎの服(ジャンプスーツ)がいくつもかかっている。

テレビがあるトラックの方まで行くと、係の者らしき人が話しかけてきた。

「申込書は、お持ちですか?」

 ネットから申し込みをしてから、何度か届いたメールに、申込書を記入して持ってくるように書いてあった。

「はい」

 まず、自分から用意してきた申込書を渡す。

「体重測定をしてください」

 直ぐ隣に泥などで汚れた体重計があった。

 ああ、靴のまま乗っていいのだな……。

 そもそも、申込書に体重を書く欄もあったが、更に測定をすると言う訳だ。一応、75キロ以上は、プラスの料金がかかるようになっている。でも、自分たち四人の中で、それを超えるものはいなかった。それを証明するということか?

 体重を測ると、申込書を再び渡された。

「受付をしてください」

その場をコの字に囲むようにして、テレビの置いてあるトラックとジャンプスーツが置いてあるトラックに、もう1台荷台のトラックよりははるかに小さい、ケバブやクレープでも売っていそうな車があった。その窓から申込書を中にいる女の人に渡した。

 その車の中には2人の女の人が乗っていて、申込用紙を渡す相手と、その隣にお会計をする相手がいる。お会計をする相手は、ここまで車で誘導してきた女の人だった。いずれにせよ、2人とも表情が変わらない。少し無機質な感じがした。

 順番に申し込みを済ませると、今度はテレビが置いてあるトラックの荷台に上がるように指示があった。

 暑いな――――薄地のトレーナの上に、黒のウインドブレーカーを自分は来ていた。上空は寒いだろうと踏んだのだが、ここはまだ上空ではない。10月中旬であっても、まだ結構下界は暑かった。

 とりあえず、ウインドブレーカーは脱ぎ、椅子に座るように指示されたので椅子に座る。椅子は2列ずつ並んでいたが、前の四席一緒に来た4人で埋めた。その後ろは他の人たちが座っていった。

 直ぐにテレビから、映像が流れだしてきた。スカイダイビングを行うにあたっての注意事項などだが、進み具合が速い。

「これ、覚えられない……」Aが言った。

「いや、この後練習すると思う」Uが答えた。

 そもそも、左側を見れば地面の上に1メートルちょいくらいの椅子がいくつも置いてある。あそこで、今見たものを練習するのは明らかだ。

 映像が終わり、次の支持を待っていたら、髪色を明るく染めているジャンプスーツを着ている男の人が、荷台に近づいてきた。

「すみませんね。お待たせしちゃって。映像もまだこれからですか?」

「いえ、もう観ました」自分が答える。

「あ、それなら良かった」

 陽キャっぽい感じの人だなと思った。

 その髪色を明るく染めているSさんは、その後、ジャンプするときの姿勢などを皆に指導してくれた。

 飛ぶときはハーネスを掴み、足は開かず軽くまげて少しエビ反りみたいに背中を反らす。肩を2回叩かれたら両手を前に出して力を抜く。というようなものだった。

 次にトラックから降りて、ジャンプスーツがかかっているトラックへ行き、サイズが合うものを探して、今来ている服の上からジャンプスーツを着込んだ。

 これは、ウインドブレーカーなんか必要なかったな………脱いでおいて良かった。

 荷物は、車に置いて置くように指示があった。トラックのロッカーは車で来ていない人用らしい。

 トラックの上でジャンプスーツを着ていると、人懐っこい雰囲気と顔をした外国人の男の人が横からひょっこり顔を出してきた。

「Aさん、いますか? Aさん私とね」

「あ、はい。お願いします」

 Aは急に少し緊張した面持ちになって、挨拶をした。

 Aは小柄で年齢もこの4人の中で一番若い。そのYと外人のGさんのペアは何だかマッチ感があった。

 トラックの下に降りると、直ぐにGさんがAを呼んだ。パッセーンジャ—ハーネスというものを装着する為だった。

 全てをGさんが取り付けてくれたわけではないが、1人ひとり丁寧に慎重にハーネスを取り付けてくれた。Gさんが取り付けてくれたのは、Aと自分だ。

 そのまま、先にスカイダイビングをしに行った人たちが下りてくるのを待っていた。その間、小さなパウチしてある名前付きの写真が渡された。

「その人が、つくインストラクターです」

 そう言って渡された写真を見ると、それはSさんだった。ジャンプしたときの姿勢などを、他の皆と一緒に教えてくれた人だ。Sさんは、今ちょうど、体験のジャンプをしている人についているということで、その場にはいなかった。

 日陰に椅子を用意してもらえて、そこに座って待つ。少し待つと、いよいよこちらの番ということになり、用意された車に乗り込む。

 車には、自分たち4人と、それぞれパラシュートを背負った人たちも何人か乗ってきた。皆陽気な感じの人が多く、テンションも高い。その中は男の人の方が多いが、女の人もいた。

 車は直ぐに停まった。

 これなら、歩いてきてもいいんじゃないか? まあ、何でもいいけど………と、自分は少し思った。

 車から降りた後も、自分たち4人より遥かにパラシュートを背負った組は賑やかだった。その中にはAについてくれるGさんもいる。

「Gさんは楽しそうな人だね」Iがそう言い、Aも頷いていた。

 Gさんは、笑顔が優し気な感じで、大概の人が好感を持てそうな雰囲気だ。

 そのまま、セスナがやってくるのを待っていた。

「Cの相手は誰?」Uが聴いてきた。

「ああ、さっき教えてくれた人だよ」

 自分はそう言いながら、渡された写真を見せた。

「ああ、あの人か」

 何気ない会話をしていると、パラシュート組が話しかけてきた。

「すみません、僕らまだ慣れていなくて、Gさんと一緒に飛ばせてもらいます。いいでしょうか?」

 自分たち4人組の中のAに対してだった。

「はい。大丈夫です」Aは答えた。

「たくさんいて、すみませんね」女の人のパラシュート組が言ってきた。

「賑やかな方が、楽しいですから」自分は、明るい感じでそう答える。

 これは、もはや自分もテンションあげあげの方がいいのだろう。最近そういう感じになっていなかったけど、自分ならいける。あとの三人は上手くできない可能性があるけど、とりあえずテンションあげあげにして盛り立てるか‼ 楽しんだ者勝ちだ‼ まあ、様子見ながら……。

 そんなことを思っていると、セスナが到着してきた。パラシュート組の女の人が、近くにあった脚立を持ち出した。どうやら、セスナにはあれで乗り降りをするらしい。

 あ、重そうだから手伝おうか――――――――って、駄目だよ。こっちは客だから逆に気を遣わせるじゃん。

 自分たちがいた場所と、セスナの出入口は逆だった。指示に従いながら、セスナの後ろから出入口側へ回る。セスナのプロペラは動いたままで、凄い風圧を受けた。

「Cさんいますか?」インストラクターのSさんが自分を探した。

「はい! 自分です」

「Sです。よろしくお願いします」

「あ、こちらこそよろしくお願いします」

「写真、渡してもらってもいいですか?」

 自分は、直ぐにジャンプスーツのポケットから、Sさんのパウチしてある写真を取り出して、Sさんに渡した。Sさんは、それを自分が来ているジャンプスーツのポケットに入れた。

「ちょっと見せてくださいね」

 Sさんはそう言うと、自分がつけているハーネスの確認をし始めた。自分の後ろからだけど、丁寧に確認をしてくれていることが分かった。

 自分の相手のハーネスは、もう一度自分でも確認するんだな。

 そう、自分のハーネスはGさんがつけてくれていた。Gさんは、自分とAのハーネスを装着してくれたが、Aのハーネスも再び確認していた。

 入念な確認だ!

 自分的には、そんな慎重な確認に安堵感を覚える。ハーネスは、インストラクターと体験者を繋ぐ命綱だ。これに何か不具合があったら落ちる。それは、ほぼ命の終わりを意味する。何といっても、上空3800メートルくらいのセスナから飛び出すのだから。しかしながら、その間もセスナのプロペラの風圧にあおられていたが、何だかそれさえも楽しかった。

 ハーネスの装着が終わると、ハイタッチを求められた。Sさんや他のインストラクター達と「イエーイ」と言いながら、ハイタッチをする。自分とSさんだけでなく、他の三人も同じ様にしていた。

 セスナの入り口付近は、セスナの後ろよりも、よりセスナのプロペラが出してくる風圧が強かった。少し、目を開けづらいと感じるくらいだ。

 これも面白い体験だな。プロペラの風圧なんて、旅行で飛行機に乗るときは、感じることができない。

 脚立を登り、最初の方にセスナの中に入った。右の奥の操縦席あたりのすぐ後ろに、Sさんが足を広げて座った。

「ここに同じ様に来て、座ってください」

 離陸をして、ある程度高度があがったら、インストラクターと体験者のハーネスを装着していくことは知っていた。だから当然、インストラクターは、体験者の直ぐ後ろにいなければならないのだろう。

 セスナの中は、そんなに広くない。背がある程度高ければ、まっすぐ立てないほど天井は低い。運転席以外には、椅子がある訳でもないから、床に腰をつけて足を広げて次々に密着とまでいかずとも、かなり近い位置に座っていくしかない。

 そうしてセスナの中で、縦に二列できた。しかし、奥に位置する自分の列の方が、人数が多かった。そして、前の男の人のパラシュートが、自分の開かれている太ももの内側の部分に押し付けられるようになっていて、少し痛かったし結構きつかった。

 ここから飛び出すまでの辛抱だ! きっとこんなもんなんだ。

 と、思って隣を見ると、隣に座っているIは、自分よりもだいぶゆとりがありそうだった。

 ああ、こっちだけきついんだな。

 Iの前にはGさんがいて、その前にAがいた。IもAもゆとりがありそうだった。

 出入口が閉まると、セスナが動き出して、離陸をした。土から離れたときが分からなかったくらいに、滑らかな離陸だった。小さな窓から外を見ていて、いつ土から離れるかを確認していたにも関わらずだ。

 飛行機は高度を上げる為に、前方を高くして少し斜めになる。

「もうちょっと前に行って」

 Sさんが、自分の前にいる人に向けてそう言った。

 あ、ありがたい!

 でも、思ったほどに前には行ってくれなかったと言うか、ほとんど変わらなかった。

 まずい、Sさんに重心かかってるわ~。

 Sさんの胸に自分の背中がくっついていた。そして、明らかに重心がかかっている。

 どうするかな? 態勢きつくて、うまくバランスとれないし。

 自分はとりあえず、自分の膝を覆う様に手を乗せた。少しそこに力を入れると、Sさんの胸から自分の背中が少し離れた。

 よし! 負担をかけなくなった!

 膝を掴んでバランスを取るのも、さほどきつくなかったから、ちょうどいいと思った。

「はい! こっち見て!!」

 インストラクターの腕には、動画撮影の為のカメラがついている。その撮影が始まったのだ。

「イエーイ」

 自分はテンション高めにして、ピースをする。隣のIのインストラクターも撮影をしていて、そっちのカメラにも同じように声を出しながらピースをする。Iも楽しそうにテンションを上げていた。更に、何処にいったかと思っていたUは運転席の隣に座っていて、Uのカメラも回っていた。そっちへもテンションあげあげで応じる。Aのカメラも当然同じだ。

 少し高度が上がってくると、Sさんが窓の外を指してきた。

「あれが、ハート湖ですよ」

「あ、はい」

 成程、ハートの形をしている。確かに、そんな写真もスカイダイビングのホームページで見かけた気がする。しかし、自分はそこまで興味を持っていなかったので、とりあえず頷くしかなかった。でも、こういうものが人気があるのは知っている。だから、ここからのジャンプはそれも名物の一つなのだろう。

「今は雲が多いけど、もう少し時期が遅いと雲がなくて凄い壮観です。雲があるときも、その良さがあるけど」

 日々顔を変化させていく空。そのシーズンによっての傾向も当然あるのだろう。その全てに会ってみたい気もするけど、それは無理難題だ。

「その時々の良さがあるんですね」

「はい」

 下界から見上げる空と、高度が高い場所から見る空は、また違って見える。何処から見ても、美しさはあるが、その時々に色彩が織りなすハーモニーに、吸い込まれてしまいそうな感覚になることがある。

「スカイダイビングは、初めてですか?」

「はい。子どもの頃からやりたいと思っていて、やっとできました。だから楽しまきゃって」

「人生楽しまないとですよ」

「間違いない!」

 人生は、楽しいだけではもちろんない。なんなら、きついことや苦しいことの方が、本当は多いのだろう。それに、世界を見れば、今も戦争が行われている。そんな場所では、人生を楽しむだなんて遠い彼方の言葉だ。それでも、この日本に生まれてきた自分は、まだ楽しむことが自分次第でできる。自分の捉え方次第で、状況はかなり変えられる。そんな恵まれた状況であることは、間違いなかった。

 インストラクターの腕にはカメラの他に、もう一つ時計の様なものがついている。時々それを確認していたから、高度計なのだと思った。そして、ある程度の高さまできたのだろう、Sさんが自分とのハーネスを装着し始めた。

「もう少し前に行ってもらえる?」

 Sさんが、再び自分の前のパラシュート組に行った。自分の前に座っている男の人も、その前の男の人もずりずりと前に動いた。

「少し腰をあげてもらってもいいですか?」Sさんが、今度は自分にそう言った。

「はい」

 自分は、重心が後ろに行かないように注意をして腰を上げた。

「そのまま座ってもらっていいですか」

 自分は、あぐらをかいたSさんの膝の上に座った。

 こういう風にして装着するんだ。インストラクターは大変だ。重いだろうに。

 男の人の膝に座ることになって、謎に緊張している自分。緊張していることに気がつかれたら、気持ち悪がられるかもしれない…………いや、これからジャンプするのだから、その緊張と普通は思うか。もはや体重をかけないようにもできない。その間、Sさんは丁寧にハーネスを装着して、確認をしてくれていた。

 しかし、ふと、隣を見ると、膝に座っているのは自分だけだった。Iも、Aも膝には座っていない。当然Uもだ…………何故? と、思ったが、おそらく自分がいる列の狭さのせいだろうと思った。

 少しすると、IにAも同じ様にインストラクターの膝に座っていた。やはり膝に座っての装着になるのだ。自分たち4人に肥満や筋肉隆々はいない。つまり、凄い重さの者はいない。それにしたって、膝が痺れたりしないのかと思った。(太っていなくても、筋肉ムキムキだと重量はある)

 更に、今度はゴーグルも装着する。ゴーグルの装着もSさんが入念確認をしてくれて、ジャンプが始まる少し前に、そのきつさも更に調節してくれた。

 セスナの扉が開かれた。前の方には一人用のパラシュートを背負っているジャンパーたちが、飛び出し始めた。続いてAも飛び出していった。

 あ、Aが行った!

 Iも、それに続くように飛び出していく。いや、自分で飛び出していくというよりは、インストラクターによって、飛び出していったと行った方が正確だ。

 その動きに合わせる様に、自分はSさんに指示されて、立ち上がっていた。若干、かがんではいたが。そして、出口へと行く。

 何だか、少しだけ現実感が遠のく。まるで映画とかのシーンを見ているか、夢と分かっていて夢を見ているときの様だ。だけど、飛び出したときの姿勢を、なんとか頭の中で反復してみた。

 出口で外が視界に入ってきて、一瞬下を見てしまった。

 うそ! これ、本当に降りるのか⁉⁉

 若干の戸惑いが自分の中に生まれたと思った瞬間には、Sさんによって、自分の身体はセスナの外へと飛び出していた。

 上空で、体を水平にして、凄い速度で自分は落下している。その速度は、一人のものよりもインストラクターと繋がっているから、二人分となり、より早くなっているはず。

 息が上手くできない。

 凄い風圧を受けていた。それは、プロペラの風圧よりもずっと凄い。その強烈な風圧は、呼吸がしにくいほどだった。

 Sさんが、肩を二回叩いてきた。セスナの中でも、とるべき態勢を頭の中で何度か復習してきていたから、その通りに、ハーネスを掴んでいた手を離して、前の方へ手を出し、少し力を抜いた。

 今は確かに落ちているのだけど、そんな感じがしない。何かから飛び降りたとき(ほんの一瞬)の落ちることと、遊園地でのジェットコースターやフリーホールで、強引な速さで落ちるとき――――そうだ、落ちるってそれくらいの経験しかない。でも、そのどれとも違う。でも、怖さは全く感じなかった。

 通常ではありえない高さから、重力によって凄い力で引っ張られている。それをひしひしと感じだ。そして、凄い風圧を受ける中での景観も、日常ではあり得ないものだ。その二つを同時に受けていて、自分は地球の凄い生命力を感じるような気がした。

 この、凄い勢いで落下するのは、実は僅かな時間だ。ほんの60秒程度らしい。そして、高度が下がってきたところで、インストラクターがパラシュートを開いた。そして、自分の身体は水平な状態から、起き上がった状態へと変わる。

 思ったよりも、ハーネスが太ももの付け根に食い込むような感じで痛いんだな………でも、そんなことを気にするよりも、この僅かな時間を楽しまなくては!

「何か一言!」Sさんにそう言われた。

「ずっとやりたかったことやったぞー」

 子どものときからやりたいと思っていたから、そう叫んだ。

「最高の言葉じゃないですか」

 Sさんがそう言ってくれて、なんだか嬉しかった。

「少しハーネスを外すから、怖いかもしれないですけど、大丈夫ですから安心してください」

「あ、はい」

 カチャッと後ろで音がすると、片足ずつ少し軽くなった。さっきまでの食い込んだ感覚が、随分緩和された。

「すごい…………綺麗だ」

 高い上空にいる今、自分の様々な想いも、濁りや醜い部分も、その全てがこの大気の中に溶け込んで、浄化してもらえる様な感覚だ。今はゆっくり下へ向かっているけれど、凄い速さで落下してきて、その上での今の状態だから、そんな風に思えるのかもしれない。

 自分の背後にいるSさんに対しては、謎の安心感を今持っている。それが持てないと、これは恐怖体験でしかないが、この非日常の状態で、物凄い頼れる感を覚えてしまう。

 まずい、これ、心を持っていかれそうになる………。

 もしかしたら、話をしているときのSさんの、前向きな言葉とかも関係しているのかもしれないが、この空と景色と、そしてSさんに心を持っていかれそうになっていた。

「少し操作を教えますね。片方だけだけど、握ってください」

 そう言って、Sさんは、パラシュートを操作している右側のステアリングライン(コントロールライン)のトグルを握らせてくれた。上下に二つついていて、その下の方だ。上の方はSさんが握っている。自分は、Sさんに言われるままに、トグルを握る。

「少し引いてください。右側の方へ行きます」

 言われたとおりに引くと右側へ向かいだした。

「次は上にあげてください。真っすぐに進みます」

 トグルを上にあげると真っ直ぐに進みだす。左のステアリングラインを引けば、左に進むはずだ。分かりやすい。

「今度は、胸の辺りまで引いてください。勢いが増します」

 また、言われた通りに胸の辺りまで引く。すると、思っていたよりも早い速度で勢いが増して落下しだした。

 そして、右側のトグルをSさんに返し、再び速度をゆるめて地上へと近づいていく。

 随分地上が近づいてくると、Sさんが支持を出してきた。

「足を上にあげて」

 これは、降りるときの姿勢だ。膝と膝を、できるだけくっつけて足を前に出す。理屈もよく分かる。きちんと前にださないと、怪我の原因になるだろう。

 自分は、足をしっかり前にだしてあげた。綺麗な着地となり、立ち上がる。直ぐにSさんが自分とのハーネスを外してくれる。そこで再びハイタッチ。

「ありがとうございました」

 Sさんに、先を越されてお礼を言われた。そう、自分は客の立場できているのだから、お礼を言われるのはよくわかるけど、お礼を言いたいのは明らかに自分の方だった。

「ありがとうございました」

 直ぐに自分お礼を返す。心からそう思ってのお礼だった。

 同じ時に、IやAも降りてきた。直ぐにその二人と合流する。次いで、最後のUも降りてきた。Iは右耳が痛いらしく、辛がっていた。実は、自分も耳抜きをしても、直ぐにゴワンとした感じがしていた。それに、少しだけ右耳が変な感じが今もする。でも、Iの方が明らかに重症だった。

 UやAは何事もなく、かなり楽しかった様子だ。

「姿勢をほめられた」Uは誇らしそうにそう言った。

 その後、動画を撮ったものをそれぞれもらって、帰りの車の中で観た。Aは自分の顔に爆笑し、それを静止画にして見せてきた。

 帰りの運転はUがしていたから、自分も見たが爆笑せずにいられなかった。

 スカイダイビングをしようと思ったときに、いろんな写真をネットでみた。そのどれとも言えない、かなりのものだった。

 他の3人に確認したけど、トグルを掴んで操作させてもらったのは自分だけだった。初めての体験だったけど、教えても平気だと思えるくらいにはうまくできたのかもしれない(?)

 因みにAとIは、初めの凄い速度で落下しているとき、怖かったらしく、インストラクターの腕をつかんでいた。

 こういう客は結構いるだろうけど…………いろんな客がいて大変だ。

 インストラクターはセスナから飛び出すとき、フルフェイスのヘルメットをしている。だから、呼吸も楽なのかもしれない。ただ、繋がっている体験者が胸の辺りを圧迫しているかもしれない。それは訊いてもいないし、やったこともないからはっきりとは分からないことだ。それにしたって、何度も何度も続けて様々な体験者と一緒にジャンプをするわけで、かなりの肉体勝負の仕事だと思った。

 スカイダイビングが、かなり好きでないとできないだろう。風圧とかいろいろなことも慣れがあるかもしれないけど、それにしたって大変な仕事だ。でも、好きなことを仕事にしているだろう。だから、きっと最高なんだろう。

 どんなに好きなことでも、仕事となるときついことや嫌なことが大概あると思う。一歩間違えたら大惨事になる危険な仕事でもある。それでも、羨ましくもなった。あの感覚に、慣れてしまうくらい、そこに身を置けていることが。

 自分が、スカイダイビングをまたやるかどうかは分からない。それなりの金額もかかるし、他にもやりたいことがあるからだ。でも、この感覚を忘れたくないから、しばらくの間、頭の中で何度も思い返していこう。

以上までが小説調の体験談でした。以下が説明になります。

今回、自分が体験したスカイダイビングはタンデムスカイダイビングとなります。

これは、インストラクターと固定して約3800メートルの上空から飛び出します。

自分が体験したのもこれで、飛行機から飛び出して直ぐにインストラクターの方が、ドローグシュートと呼ばれる減速用の小さなパラシュートを開いているはずです。(フリーホール状態のときに上を見上げる余裕などないので、確認はしていません)

この、ドローグシュートを開くと、一人のときと同じくらいの落下速度に近づくので、安全性が増すのです。当然、重量が重い方が落下速度は速く、ドローグシュートが無かった初期の頃はそのためパラシュートを開いたときに破損する場合があったようです。これは怖い!!

でも、今はそんなことはなく、安全に楽しめます♪

落下速度は、時速200キロメートルほどだとか。地球の重力に引っ張られる力と、空気抵抗(落ちるときに感じる風圧です)のつり合いが取れる辺りがこの200キロメートルみたいです。

頭を低くしたりすると、空気抵抗が少なくなって、更に速度を出すことも可能らしいです。

しかし、普通は時速200キロを体感することはないはずです。車はその速度を出すことは可能ですが、高速道路でもそれは違反となりますしね。

東京近郊だとスカイダイビングの体験は30000円台から70000円くらいでした。料金の差は、連休かどうかや、カメラ撮りをつけるかなどで違っています。もちろん、体験を行っている場所によっても設定料金は異なってきます。

自分は最初、カメラ無しでいいかと思っていました。栃木県で体験しましたが、始めは別の場所を考えていて、でも、そこの予約が取れず、栃木へと行ったわけです。栃木の方がカメラ無しの選択がなく、その分料金も高めでした。

でも、かなり面白い動画が撮れて、帰りの車の中では皆でかなり爆笑していたので、カメラ撮りは有りをお勧めします。自分としては、もしまたスカイダイビングをやる機会があったら、同じ栃木でと考えています。

人生で一度くらいは体験して損はないと思いますが、飛行機などで耳がおかしくなりやすい人(耳抜きができない人)などは、その後に耳が痛くなる可能性もあるのでよく考えてから挑戦してください。ちなみに、Iの耳の痛みは、翌日にはすっかり治っていました。

インストラクターさんたちはやたらとテンション高めでしたが、あれも必要な気がしています。低いテンションの方が緊張や怖さが増すと思われるからです。明るい雰囲気で一緒にジャンプしてくれるので、その方が絶対に楽しめると思います。

高いところから飛ぶということで考えてみたとき、プールの飛び込み台で割と高めのところから飛んだことがあります。最高10メートルの高さの飛び込み台からでした。あのときは走っていって、一気に飛び込みました。下を見ると、10メートルもやはり高く、怖気づいてしまうからです。でも、楽しくて何度もやりました。

スカイダイビングはそれとは比べ物にならない高さですが、ジャンプする時はやはりあまり下を見ない方がいいかもですね。

四季折々でジャンプしてみたい!いろんな空へ飛び込みたい!!そんな風に思える体験でした。

思い切っていろんなことをした方が、人生は楽しくなります!!

尚、今回自分が体験をしたのは、栃木県にある「スカイダイブ藤岡」でした。

レッツスカイダイビング - 藤岡スカイダイビングクラブ

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