記憶の彼方へ 1

小説

長めの話になってしまったので、3回に分けて投稿することにします。3日間連続での投稿です。全部読んでくれたら嬉しいです。

※注)一部、性的描写も入っている為、15歳未満の方は読まない方がいいかもしれません。

 幼い頃、誰かにある本を読んでもらった。それは、長い年月ずっと独りでいる孤独な男の人の話だった。彼は、普通の人よりもずっと長い年月の中で、たった1人の人しか愛せない。その愛する人をずっと探しながら生きているのだという話だった。

 私は、それが可哀想だった。それなら、その相手がすぐに現れてあげればいいのにと心からそう思った。

 でも、その本はどこにも見当たらない。誰が読んでくれたのかも全く思い出せない。周りに訊いて誰も知らなかった。

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初めて会った時、ちょっと好みだなと思った。

大して行きたいとも思っていなかった集まりに、ここ2年ほど彼女がいないという理由から強引に友達につれていかれた。

年上と聞いて、正直少し引いた。別に年齢は気にしてないはずだけど、年下としか付き合ったことがなかったからだ。年下の子は甘えてきて可愛い。頼ってくるのも可愛い。

でも俺は、2年前に付き合っていた女の子に二股かけられた。しかも、俺の当時の職場の面倒を見た後輩が相手だった。それなのに、何か月もそれに気がつかなかったのは俺だけで、3人で飲みにいったりしたこともあった。

彼女の二股が発覚して、俺はちょうどそのときに希望を募っていた大阪への転勤を希望した。でも、東京には実家もあったし、友達も多くいたからちょくちょく帰ってきていた。そんなときに、学生からの独身組の友達に合コンに連れていかれたのだった。

志乃とはそこまでたくさん話したわけでもなかった。それでも、何故だか合コンが終わっても志乃のことを思い出すことがあった。あのときの合コンの中で志乃の事だけを気にしている自分がいることに気がついた。

そんな中、偶然大阪に旅行に来ている志乃と会った。志乃は京都に引っ越した友達に会いにきたついでに、大阪に寄ったと言っていた。こんな偶然があるとは思いもよらなかったけど、俺と志乃は一緒にご飯を食べて、連絡先を交換して、そのあとはたいして時間もかからずに付き合うことになった。

始めこそは年上はどうかと思ったけど、思っていたよりも悪くなかったというか、それは志乃だったからなのかもしれないけれど、俺は志乃にどっぷりつかっていった。

お互いの都合にもよるが、月に3回以上は週末に俺と志乃は会うようになっていた。志乃は東京で1人暮らしをしていたから、お互いの家を行き来するようになっていった。

「聡太さんは本当に料理が上手ね」

「まあ、一人暮らしが長いからな」

俺の家に志乃が今は来ている。志乃もご飯を作ってくれるが、俺も料理が嫌いじゃないから、志乃が来たときに作る。志乃はいつも美味しい美味しいと言って喜んで食べる。

「あーあ、私も負けないようにもっと料理の勉強をしないとな」

「志乃だってご飯作るのうまいじゃないか」

実際志乃の手料理は美味しい。

「そうかな? そう言ってもらえると嬉しいけど」

志乃を褒めると嬉しそうに微笑む。この笑顔を見ると仕事での疲れも初めから無かったかのようになる。

 後片付けを2人で済ませて、俺はソファの上で志乃の膝の上に頭を乗せた。志乃の太ももは柔らかくて心地いい。

 俺が志乃の膝に頭を乗せると、いつも志乃は俺の頭を優しく撫でてくる。それがまた気持ちよくて、そのまま眠ってしまいそうになることもある。でも、一度本当に眠ってしまったときがあった。志乃は3時間近くもそのままでいた。立ち上がった志乃はずっと同じ姿勢でいたせいか、よろけて俺が支えないと転ぶところだった。足も痺れていたらしい。

 だから、眠らないように俺はしている。

「志乃、足痺れてないよな?」

「うん。大丈夫」

「疲れたら言えよ」

「うん。でも、こうしているの結構好きだから」

 志乃は我儘を言わない。だけど、会う約束を言い出すのはほとんど俺からだ。志乃が俺に言う前に俺が約束をしようとするから、志乃から言い出す隙がないだけかもしれない。でも、時々不安になる。志乃は俺と一緒にいたいと思っているのかどうかが。ほとんど好きだと言葉にされたこともない。このよく分からない不安はきっとそのせいなのだろう。

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 どうしたのだろう? 今日は何だか機嫌が悪いみたい。私と目を合わせようともしない。久しぶりに(2週間ぶり)会えたのに、これじゃあ悲しい。

 私たちは遠距離恋愛だから、どうしたって頻繁に会うことなんてできない。おまけに当たり前だけど、2人とも仕事を持っているから尚更だ。だからこそ、一緒にいられる時間は私にとってとっても貴重なのだけどな。

 私は、テレビの画面でゲームをしている聡太さんを恨めしく見たけど、そんなことをしてみても何も変わらない。

 出て行けと言われたわけではないから、とりあえずお風呂にでも入ろうかな? もう遅い時間だから、これから帰るだなんてきつい話だもの。

 私は仕方がないので、着替えを持ってお風呂に入った。お湯が沸いているわけではないから、シャワーだけになる。

 聡太さんが自分の部屋に入ったら、ソファででも寝るかな………明日の朝早くに帰るべきか、聡太さんが話してくれるまで待つべきか………。

 私がシャワーを浴びていると、いきなりお風呂の扉が開いた。

「うわっ!!」

 明らかに苛立っている感じの聡太さんが、いきなりお風呂に入ってきたので、私はすごく驚いた。そもそも、お風呂には一緒に入らないようにしている。付き合いたての頃に一度だけ入ったけど、いろいろ綺麗にする場所だし、明るい場所で見られるのが恥ずかしいので私がやんわりと拒否をしてきた。

 聡太さんも分かってくれているとばかり思っていたのに、いきなり入ってきた。

「びっくりしたよ。せめて声を掛けてくれたら良かったのに」

 そう言う私には何も答えないで、聡太さんはいきなり私に唇を重ねた。いつもの優しい感じとは違って強引さがある。

 体中を撫でまわされ、キスはどんどん深くなる。私の少しの抵抗は空しく、まるで聡太さんに力で敵うことがないと思い知らされた。

 強引というか、乱暴な感じで、私はお風呂の壁の方を向かされた。胸を少し痛い位な力で揉まれる。

「そ、聡太さん、本当にどうしたの?」

 聡太さんはそれにも答えない。こんなに強引なのに、律儀に避妊用具をつけ始めた。

 私は、押さえつけている聡太さんの手から解放されたけど、動いたらもっと駄目になるような気がして、そのままの態勢でいた。

 聡太さんは強引に私の中に入ってきた。でも、私にも痛みがある訳ではない。その辺も律儀さがあった。

 事を終えると、聡太さんはさっさとお風呂場を出ていった。

 いったい………本当にどうしたのだろう? でも、このままじゃ終わらせない。

 私もすぐに聡太さんの後を追って、お風呂場を出た。

「聡太さん待って」

 聡太さんはやっぱり何も言わない。私が体を拭いている間に、スウェットの上下を着て、私を置いて洗面所を出ていった。

 私は急いで持ってきた着替えを着て、やっぱり聡太さんの後を追う。

 聡太さんはテレビの前にはいない。私は髪の毛も濡れたままで、すぐに聡太さんの部屋に行く。

 聡太さんは自分の部屋のベッドに座っていた。私が入ってきたことを知っているはずなのに、全くこっちを見ない。

「聡太さん、今日は本当にどうしたの? いったい何があったの?」

 聡太さんは何も答えない。こっちを見ようともしない。私は、聡太さんの肩を掴んだ。

「私が無視されるの大嫌いだって知っていてわざとやっているの? 今日はこの家を出ていってほしいの?」

 やっぱり聡太さんは、何も言わない。

 私は聡太さんの肩から手を離して、向きを変えて部屋を出て行こうとした。

 何がなんだか分からないけど、もう駄目なのかもしれない………少しでも、時間が解決してくれることに希望をもつしかない。でも、凄く辛い。

次回(明日)へ続く

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