江の島と由比ガ浜

人生行動記

 海へ行きたいと思った。空も好きだが、自分は海も好きだ。ちなみに夜の海も好きで、最近はあまり行かなくなったが、一時期はよく行っていた。

 今回も最初の運転はUがしている。自分は助手席に乗っているが、途中、行きのバスなのか、園児を乗せた園バスの隣に停まった。自分たちは右へ、園バスは左へと向かう場所で信号待ちだ。

 Uが何を思ったのか、運転席からその園バスへ手を振った。

「やめなよ。変な人認定されて怖がられるよ」

 すかさず自分がそうUに向けて言う。Uはそんな自分の言葉にものともしていない感じでスルーしたが、手を振るのはすぐに止めた。

 自分は、隣の園バスを見る。すると、眼鏡をかけた可愛い男の子がこちらを見て手を振っていた。何とも言えず可愛らしくて、自分も手を振り返す。自然と顔もほころんでくる。

 その手の振り合いは、それぞれの向かう場所へと車が走り出して、左右に分かれるまで続いた。それにしても、ほんわかした気持ちになったのだから、この後の今日一日はいい時間を過ごせるだろうと思えた。

「ほら、やっぱり手を振ったからだよ」

 自分と一緒に手を振っていたUは、勝ち誇ったようにそう言った。自分は微かに頷く。

 その後、自分はUに運転してもらいながら、ずっと車の中で小説を書いていた。時々Uが話しかけてくることに対して答えはしていた。後部座席では、Aが寝転がって携帯を触っている。

 車を進め、鎌倉市に入り、Uは由比ガ浜の方へ向かおうとした。

「あ、今日は江の島に行かない? そっちで海鮮丼系を食べない?」

 少し前に思いついたことだった。数年前に江の島に行ったときに入ったところのなまこが美味しかったのを覚えている。

「混んでいるんじゃ?」

「でも、今日は平日だし平気じゃないか?」

 といっても、鎌倉の街を車で進めている中で、辺りは人混みばかりだった。Uは人混みが嫌いだ。前にUSJに行こうかと誘ったら、混んでいるから嫌だと言われたこともある。

「まあ、いいか」

 それでもUは承諾し、車を江の島へ進める。そもそも、始めはAと2人で海へ行く予定だった。でも、Uが暇ということで一緒に行くことになったのだ。

 人がたくさんいたら、駐車場問題がでてくるけど、今回はなんなく駐車場を見つけて停めることができた。

 駐車場から出ると、反対側の歩道に「しらすコロッケ」の看板が目に入った。自分は少し興味が沸いてきた。

 横断歩道を渡って、自分は左へと歩みを進める。しらすコロッケの方向だ。あとの2人の反応は今一で、その時はしらすコロッケは買わなかった。

 最初の海鮮が食べられる店は混んでいるようだった。次の店は並んでいる客はいなかった。昼を少し回っていたので、3人共お腹は空いていた。結局、並んでいる客がいない道に面した外の席に座った。

 自分はしらすと生しらすといくらの海鮮丼。Uも同じもので、Aはサーモン丼を頼んだ。Aと少しシェアしたが、どちらも美味しかった。

 食事が終わり、店を出た。元の道を少し戻りつつ、Aを誘ってしらすコロッケなるものも食べてみた。だけど、しらすの風味が自分には感じられず、普通のコロッケと同じように思えた。

 とりあえず、江の島に来たから、江の島神社辺津宮へ向かうことにした。

 まず、大きな鳥居がある。そこをくぐって行こうとしたが、Uに止められた。

「人ごみ嫌いなんっすよね。裏道いかない?」

 別に道のりにこだわりがあったわけではない自分とAは、Uの提案通りに左側へと歩みを進める。

「野良猫がいる場所もあるよ」

「そうなんだ」

 Uは別の友達とここへ来ていて、そのときも同じ道を通ったらしい。

「野良猫なんて家の近所じゃ見ないもんな」

 昔は、猫を放し飼いで飼っている家が多かったらしい。近所を渡り歩いてあちこちで餌をもらっているような猫もいたと聞いたことがあった。

 自分は、基本的に動物全般が好きだ。だから少し期待が膨らんだ。結果、茶色ベースのトラ猫(?)がいた。すぐに何処かに行ってしまったが、毛艶もよく、丸々としているので、餌には困っていないようだ。

 裏道と言えど、道案内の標識がところどころにある。これなら道を間違えることもほぼほぼないだろう。

案内の標識通りに行くと、階段があった。その階段を上り、さらに進むとまた標識があり階段を上る。そんな風にしてどんどん登っていく。そのうち、鳥居をくぐって進む方の道と合流した。

 あるところまで登ると、右側に辺津宮があった。また階段を少し上っていく。辺津宮は人で賑わっていた。御朱印も売っている。

 階段を上ってすぐの右側に、龍の像を真ん中あたりにおき、その前に賽銭箱が置いてある人工の小さな池があった。賽銭箱までは少し離れている。何人かの人たちが賽銭を投げ入れては、まったく入らなかったり、賽銭箱に当たって弾かれたりしていた。そうした賽銭は池の水の中にたくさんあった。

 自分もやってみたくなって、小銭を1枚取り出し、賽銭箱へ向かって投げる。賽銭箱の真ん中辺りに入りかけて、弾かれてしまった。ちょっと悔しかった。

「AとUはやらないの?」

「いいや」

 2人は口々にそう言った。こういうときはIの方がのりがいい。この2人は少し冷めている。

 辺津宮を一通り見てから、御朱印を購入した。たくさん種類があって迷った。

「Uは買わないの?」

 前にUが、御朱印を集め出したと言っていたことを思い出して言ってみた。

「前に買ったからいいや」

「なるほど」

 辺津宮を出て、右へと向かう。今度は中津宮の方へ向かう。少しは平たんな道だが、すぐに階段になった。この階段の多さだが、実はエスカレーターがいくつかある。ただし、このエスカレーターは1回180円の料金がかかる。全部上まで登る為には3回以上エスカレーターを使うことになる。

 自分は歩くことが好きだから、特にエスカレーターを使いたいとも思わない。でも、なんだか面白いと思ったから、写真に収めた。

 中津宮の向こうには、展望台もある。公園みたいなところがあって、海が見える位置にベンチもあった。

「ちょっと座っているわ」

 Uの言葉にAも一緒にベンチに座りだした。自分は全く座る気になれない。せっかくきたのだから、いろいろ歩き回りたい。

「何か飲み物を買ってこようか? 売っていたらだけど」

「あ、頼む」

「ほしい」

そう答えたUとAをあとにし、自分は散策を始める。この季節だから花とかもほとんど咲いていないけど、椿らしきものとか少しだけ咲いていた。

 公園を出て左に進むと、食べ物が売っていた。さっきUが、タコせんべいが食べたいと言っていたのを思い出した。すぐ近くには自販もある。自分はまず自販でお茶を3本買った。そのあとでタコせんべいを買う。1袋で2枚入っているみたいだから、1袋だけ買った。UとA用だ。自分もタコせんべいは好きだが、今は食べたいと思っていなかった。

UとAの元へ戻って、お茶とタコせんべいを渡す。

「鳶が狙ってくるから気をつけなよ。体からあまり離さない方がいい」

 空では鳶が数匹飛び交っている。自分は別の場所だが、ペットボトルを鳶に持っていかれたことがあった。あのときはかなり驚いた。でも、自分の手に怪我は一切負っていなかったから、鳶は凄い。

 2人がタコせんべいを食べてから、下へ降りる。来るとき長く感じたから、下りの階段への不安が少しあった。まだひざの調子はあまりよくない。山の階段とは違うけれど、転ぶ前よりよくないからだ。

 でも、来る時よりも下へ着くまではずっと早く感じた。1度目は知らない道で帰りは知っている道だからだろう。

 帰り道でも猫がいた。さっきと違う猫だ。

「この子は逃げない」

 自分は少しずつ猫に近づくけれど、猫に逃げていく気配はなかった。

「慣れているんだよ」

 すかさずUが答える。

「確かに、そんな感じ——————写真撮ってもいいかな?」

 猫は顔を少しだけこちらに向けて、まるで「どうぞお好きに」と言っているかのようだった。

「ねえ、触ったりしても大丈夫かな?」

 少しずつ調子に乗っていく自分。

「それはやめたら?」

 今度はAにそう言われた。2人ともあまり猫に興味を示していない。こういうのも、Iの方がのりが自分と近い。

「そうだな。知らない人に触られるのは、嫌かもだから」

 その後、自分たちは駐車場に戻り、車で今度は由比ガ浜へと向かった。

 由比ガ浜の砂浜へ降りる。Uは眠いと言って、車に残っていた。だから、自分とAだけが行った。

「あっちの方へ歩いて行こうよ」

「え~、いいや。ここにいるから行ってきなよ」

「分かった」

 Aはやっぱりのりが悪い。

 自分は独りで歩き始める。ここではカラスが空を舞っていた。それと、砂浜にも降り立っていた。そんな何羽かのカラスの中に、2羽で仲良さげなカラスたちがいた。つがいなのか、別の関係性なのか分からないけど、とりあえず写真に収める。

 日本では(他の国は知らないが)カラスはどちらかと言うと嫌われている。ゴミを荒らすし、時には人を襲う。実際に女の人が襲われているのを見たことがある。だが、人を襲うのは子育て中のカラスが多いらしい。カラスはスズメも襲う。これは捕食の為だろう。

 自分が敬愛している動物学者は、コクマルガラスというカラスの研究もしていた。単純なのだが、そんな経緯もあり自分はカラスが別に嫌いではない。それに、クリクリした目をしていて結構可愛い。

 途中、道路の方へ出ないと進めなくなった。でも、道路まで出るのは煩わしくて、元来た道を戻る。

 水平線も視界にはもちろん入っているけど、水平線を見たいというのではなく、海と空を一緒に見るのが好きだ。海にはたくさんの人たちがいる。泳がずとも海は人気がある。そのうちの1人である自分。

 波打ち際から、そのずっと先をイメージしてみる。どんどん深くなり、様々な生物が生息している。もちろん地上も様々な生物が生息しているが、海には海の世界が広がっている。勝手なイメージを広げながら、Aがいるだろう場所まで歩いていった。

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