トンネルプログレッション2

人生行動記

 スカイダイビングのAFFを学ぶためには、あと20分間のトンネルプログレッションを習わなくてはならない。

 自分は、今回はメールで予約をした。そのときに、前回と同じDさんを希望してみた。自分がどの程度なのかを把握しているだろうし、好感の持てる感じのインストラクターさんだったから、そうしたのだけど、あいにくと自分が予約をしたい日はDさんがお休みだった。

今回は、IやAも一緒に行く。話をしたら面白がっていたからだ。でも、この2人は体験だけだ。自分は一応プロフライヤーという称号をもらっている。だから、インストラクターがつくが、飛ばしてもらうのではなく、飛び方を習う。

「何だかお腹が痛い」

 当日、車で向かっていると、Iがそう言った。

「パーキングに寄る?」

 既に高速を走行していたから自分はIにそう訊いた。

「いや、いい。朝してきたからそこじゃないと思う」

「どうする? 体験できる?」

「分からない」

「とりあえず、このまま向かっても大丈夫か? それともやめておく?」

「とりあえず向かって。駄目そうなら2人がやるのを見るだけにする」

「分かった」

 結局はその状態は本人にしか分からない。検査でもすれば、医者とかには分かるところもあるかもだけど、IのことはIの判断にゆだねるしかない。

 結局、そのままフライステーションへと向かった。

 フライステーションに着いてから、再びIに体調を確認する。

「お腹どう?」

「さっきより大丈夫だと思う」

「体験できそう?」

「うん」

 結局、Iも楽しみにしてきたわけで、体験をできるならやりたいのだろうと思った。Aは真っ先に車を出て入口へと向かった。自分とIも後を追う。

 中に入って、受付に予約の名前を伝える。鼻の下に髭を生やしている人が対応をしてくれた。

「Cさんは、この前は去年とかですか?」

「いえ、先月です」

「ああ、それなら大丈夫ですね」

 きっと、期間が空きすぎると、僅かに身に付いた感覚とかも、分からなくなるから確認をするのかなと思った。

 IとAには名前やら連絡先やらを書く紙を渡される。

「自分は、12時と13時に予約しています」

「はい。合計20分ですね」

「はい。全員フルフェイスのヘルメットでお願いします」

 前回、フルフェイスでなくてきつかったから、今回は初めからお願いした。

「Cさんはフルフェイスでいいですが、体験の方はフルフェイスはできません」

「分かりました。じゃあ、ネックゲーターを2人ともお願いします」

 来る前から少し話をしていたから、2人とも分かっているはずだと思って、フルフェイスが駄目ならネックゲーターだと思って頼んだ。1つ500円だけど、フルフェイスでない以上、ネックゲーターがないと辛い。それに、フルフェイスのヘルメットは1000円プラスだから、ネックゲーターの方が安くすむ。

 自分が受付でやり取りをしている間に、IとAは記入を済ませて用紙を受付で渡した。IとAはそのあと、ジャンプスーツやヘルメットに耳栓を借りる。自分はスカイダイビングの為にここに来ているので、藤岡で借りてきたジャンプスーツに着替える。

 ここで借りるジャンプスーツは青系で自分が好きな色合いのものだった。自分が借りたジャンプスーツは色合いが違うので目立つ。それが少し恥ずかしく感じていた。

 まず、始めに自分が入った。自分のは3分とか4分とかに時間を分けて行われる。ただの体験でなくて、姿勢やら動作やらを習得していかなくてはいけない。だからそれなりに緊張もするけど………………浮く感じが楽しすぎるのは既に知っているから、楽しみの方がずっと強い。

 自分について教えてくれるのは、前回とは違う人だ。前回の人よりも若く、始めは眼鏡をかけていたが、ヘルメットをつけるときには眼鏡は外していた。眼鏡をしているときとそうでないときとでは、雰囲気が結構違って見えた。

 自分は前回と同じ様に入り口の上の部分を掴んで少し体を後ろに反らし、顔も一緒に反らす。中は下からの人口の風が吹きあがっている。インストラクターのBさんが自分を中へ入れてくれた。

 下の網近くに体が前に倒れそうな感じになり、少し浮く。

 ああ、この感じだ。もっと高く浮きたい。と、自分はつい思ってしまう。

 Bさんの指示で、まず前方へ進む。腕ひいて、足を伸ばす。姿勢がぐらついてしまう。それでも、前回と同じに前に進む。そして、今度は後ろへと進む。簡単にうまくできないが、それでも、なんとか進む。

 今度は右へ回る。右へ回るときは右ひじを下へ少しずつ下げる。微妙な感じだったけど、なんとか回る。その間、浮いたり下がったりをして、全然位置が落ち着かない。

 左側へも回って、次の人へと交代になった。IとAの体験だ。自分は携帯を構えて2人の写真や動画を撮る。Bさんが気を利かせてくれて、外側へと行かせてくれた。

 IとAは2フライトで、合計2分間。受け付けで対応してくれた鼻の下に髭がある人が担当していた。その他にも、男女のカップルがいて、全部で4人が待機していた。

 まず、Iが入った。インストラクターの腹部の辺りまで浮いた。インストラクターが横から服の端を持って、コントロールしている。Aも同じ様に浮いた。IとAでは、Iの方が姿勢が良かった。自分は姿勢を気にしてやっているから、ついそこも気になってしまった。

 次に、カップルの男の人の方が入った。彼は姿勢が微妙な気がしたが、彼女の方は姿勢が綺麗だった。

 その後、今度はタクシーフライだ。Iから始める。これは、2階まで浮かび上がることができる。もちろんインストラクターと一緒だ。

 自分はトンネルの近くへ行って、携帯の角度を上に向けて2人の動画を撮った。正直、顔で出ているのは目だけだし、かなりの動きがあるから、どこまで2人が楽しんでいるのか分からないけど、画像には収めた。

 2人とは言葉を交わしたりする間もないうちに、再びBさんとトンネルの待機場所へと行く。

「今度は自分で入ってみてください」

 Bさんにそう言われた。今までは全部インストラクターの人たちに中に入れてもらっていた。そのうち自分で入ることになるだろうとは思っていたけど、新しいことに少し緊張する。

「しゃがんで、腕をあげて、足からでなく上半身を前に出すような感じで」

「はい」

 自分は言われた通りに入り口でしゃがんで片方の膝をつき、片方の膝はたてた状態で両手はニュートラルのときの姿勢にし、中へ入ろうとした。でも、始めは上手く入れなかった。

「顔をあげて」

 そう、またしても自分はつい顔をさげてしまっていた。でも、2回目か3回目で中には入れて、そのまま体は下の網とほぼ平行に浮かび上がる。Bさんも自分に続いて自分と同じくらいの高さに浮かび上がった。

 再びBさんの指示で前に進み、後ろに進み、右へ回り、左へ回る。次に、Bさんのリストを握る練習をした。Bさんのところまで行って握らないといけない。でも、握ろうとすると、上に浮かび上がってしまう。なかなか難しい。

 この日の自分が予約をした時間は平日なこともあり空いていた。でも、Bさんは10分10分を続けてやってもいいようなことを言ってくれたが、それはやめておいた。前回、翌日にスクワットをやろうとして、6回やっただけで足の疲労感を感じてよろけて座らないと駄目だった。直ぐに歩いたりはできるようになったけど、全部で3日間はスクワットはやめておいた。そんなこともあり、休憩を間に入れた方がいいような気がした。

 予約と予約の間では、自分の撮ってもらった映像を見て、いろんな注意を受けた。

「回るとき、腕だけでなく、足もつけるともっと早く回ります。右に回りたいときは左の足を、左に回りたいときは右足を軽く出して曲げます」

「反対の足を出すのですね」

「そうですね」

「あの、やっぱり何も考えなくても動けるようになるのでしょうか? 例えば、歩くときに右足を出して前に進むとか考えなくても勝手に右足と左足が交互に出るような感じで」

「そうですね。今は頭でもしっかり考えた方がいいですけど、そのうちそうなりますよ」

「やっぱりそうなんですね」

「ライセンスもAは取っておいた方がいいと思いますよ」

「はい。今回はセットになっているので、Aは確実に取ります。ただ、藤岡では、ウオータートレーニングはやっていないみたいなんです。B級のライセンスには必要だったと思うのですが」

「そうですね。確かに必要です。自分はアメリカで取りました」

「アメリカですか。今の円安時期はアメリカは少しきついですね。円高の時が良かったな」

「確かにそうですね。ああ、タイとかどうですか?」

「タイか。あ、でも自分は英語が話せないけど、大丈夫ですかね?」

「今は携帯でも訳してくれたりするし、大丈夫ですよ」

 Bさんにそんな風に言ってもらえるとそんな気がしてきていた。でも、どうせタイにまで行くなら友達と一緒に行けた方がいい。それでライセンスのときだけ別行動をして、他は観光とかできたら楽しいかもしれないと思った。

「次ですが、自分の腕もできるだけ早く掴んでください。顔を上にあげるのを忘れないように。掴もうとすると腕を見たくて下を向くのだと思いますが、じっと腕を見るのではなくて、位置だけ確認したら、スッと掴む感じで」

「はい」

 頭の中でイメージを起こしてみる。とにかく顔は反らす。

「左右反対の腕と足で回りますが、同じ方の手足を下げたらどうなると思いますか?」

「うーん、ひっくり返る?」

「いいえ、ひっくり返るのではなくて、横にスライドします。それも次はやってみましょう」

「はい」

 どんどん新しいことを教えてもらう。本当に必死だけど、やっぱりすごく楽しい。それに、自分ではグラグラしているし、全然駄目だと思っているが、自分が思うほどには駄目でもないのかもしれない。本当に全然駄目なら、きっと新しいことは教えられないだろうから。

 次の予約の時間になり、再びトンネル内に入る。Bさんのリストも再び掴む。何とかであっても、自分ができると、Bさんはヘルメットの中で口角を上げて笑顔を見せてくれる。それが嬉しくも感じて、より必死になる。

 しかし、このBさんの笑顔だが、女の人、特に若い女の人とかはクラッとするのではないかと思えるほどいい笑顔に自分には思えた。

 それに、隣で自分がうまくできないことを綺麗な姿勢でやっているBさん。正直、かっこよくしか見えなくなっていった。Bさんみたいに安定感のある体勢をキープできるようになりたい。そんな風に思った。

 Bさんが高めに浮かび上がれば、自分もそのあとを追って浮かび上がる。下に下がるときもそうだ。そして、今度はスライドだ。Bさんはすごく綺麗に横にスライドしてみせた。自分も真似る。右側はなんとかできた。

 やった! 調子いいじゃん。などとちょっと思って、反対側のスライドで自分は見事にひっくり返ってしまった。なんとか体勢を戻そうともがいてしまった。Bさんがそれとほぼ同時に助けに来てくれて、そのもがいている自分の足でBさんを3度ほど蹴ってしまった。それでも、Bさんは笑顔でいてくれた。そして、自分の足を交差して体勢を直してくれた。

 トンネルから出て、ヘルメットをとる。

「さっき、膝を網にぶつけていたけど、大丈夫でしたか?」

 自分の膝が弱いことをBさんはもちろん知らない。しかも、自分にBさんは蹴られていた。

「全然大丈夫です。それより、Bさんのこと何回か蹴ってしまって。大丈夫でしたか?」

「あ、それは全然問題ないから大丈夫です」

 自分が蹴ってしまったのに、まずこちらの心配をしてくれたBさんに対して、インストラクターとしても優秀なのだと思わずにはいられなかった。それに、人としてもきっと素晴らしいのだろうと勝手に思った。それと、そんなBさんを蹴ってしまったことに、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 その後は、風圧の違いを体験させてくれたり、本当に丁寧にいろんなことを教えてくれた。

 浮かび上がる感覚……………最近は見なくなったが、前によく見ていた夢がある。思い描いたり目指したりする夢でなくて、眠っている間に見ている夢だ。

 誰もいない普段暮らしている辺りに自分はいる。

 あ、来る。そう思って、自分は後ろから来る風に合わせて椅子に腰かける感じで膝と腰を軽く曲げる。すると、フワッと体が風に乗って宙へと浮く。高さは、そのときによって違いがある。すごく高くまで飛べるときと建物の2階くらいまでのときと。本当によくその夢を見た。その夢を見るのが楽しかった。

 Bさんが、「手の平で風を感じてください」というようなことを言った。その言葉で、風を感じたいという感覚が自分の前面に出てきた。スカイダイビングでも風を感じたいと今は思っている。まだたくさん練習をしなくちゃだけど、自然に風を感じてその感じた風で頭で考えなくても体を動かして動けたらと思う。風を感じたい。

時間がかかってもいいから、ライセンスも上を目指していきたい。とりあえずはAFFだけど、藤岡で駄目ならタイへ行ってB級ライセンスを取りたい。

1番いいのは、同じスクール生の誰かと意気投合できて、一緒にライセンスのためにタイにいけることだなと思った。でも、言葉の壁を少しでも軽くした方がやりやすいし、まだB級までは時間もあるから、毎日少しでも英会話の勉強をしていこうと心に決めた。

やれることはやるぞ! という、意気込みで前に進みたい。

自分の練習が全て終わり、IとAが待っている場所へ行く。2人はトンネルの周辺にあるソファに座っている。

「ごめん。たくさん待たせた」

 元々、自分は2人に比べて長いことを伝えておいた。

「全然大丈夫。めっちゃ面白かった」

 Iが上機嫌だ。

「気がつかなかった? Cの映像撮っていたこと」

 Aも面白そうに言った。

「えっ⁉ 全然分からなかった」

「Cをバックに3人でも撮った。中に入るときとかおかしくて笑った」

 どうやら、2人は自分を笑いものとしていたらしい。自分が練習する姿で面白おかしく遊んでいたみたいだ。

「ちょっと、見せてよ」

「いいよ」

 その3人で写っているという映像を見せてもらった。ノクターンが流れていて、自分がうまく飛べていないときとかに、ノクターンの音も濁る。その感じが確かに笑えた。

「なんだよ~、人で遊んでいたんだな」

 自分はふざけた感じでそう2人に言った。立場が逆でも、きっと自分も同じようなことをしていただろう。2人が撮影した映像は、自分にも送ってもらった。

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