アシナガウミツバメ

小説

 体が動かない—————みんなの元へ戻りたいけど、随分離れてしまった。そもそも、これじゃあ、餌をとることもできない。体がきつい。

 たくさんの人間がいる。波に流されて、砂浜に打ち上げられてしまうかもしれない。さっきから砂浜に近づいたり少し遠ざかったり——————本当はみんなの元へ戻りたい。

 誰かの視線を感じる。僕の左後ろのあたりにいる大きな人間。そう、少なくとも僕よりはずっと大きな体だ。僕のことをまるで心配するかのように見ている。だけど、大きいからやっぱり怖い。

 僕の後ろの方には、カラスが来ている。もしかしたら、僕を狙っているのかもしれない。僕は襲われても抵抗する力がきっと出ない。誰も助けてなんてくれない————どうすれば助かるのかも分からない————でも、痛い思いをするのは嫌だな。カラスがいるのが怖いよ。

 あ、僕のことを見ている人間と目があった。何か変なものをいじって、僕の方にも向けている。何だか怖い。あの人間も僕を狙っているのだろうか?

 僕も、いろんな動物を食べてきている。だから、僕が弱ったら他の動物に狩られることは、考えなくても本能で理解している。でも、痛いのは嫌だし、まだ生きていたい————みんなの元へ戻りたい。

 誰かが助けてくれないだろうか? 僕は体が動かなくて、自分で自分のことを助けられそうにない—————怖いよ。

 あ、痛い! 怖い、怖い、怖い、痛い————カラスが、僕の翼をクチバシで掴んできた。そのままひっぱっていく。抵抗したくて、体を少しだけ動かしてみても、カラスには全く敵わない。

 そうして、僕の身体は砂浜へ引き上げられた。すぐにカラスが僕の首元を攻撃しようとしてきた。でも、そのときに、大きな影が少し動いた。カラスも僕から僅かに距離を取る。

「だめだよ。野生なんだから手を出したら」

 その言葉と共に、その影は動きを止めた。そして、またすぐにカラスが僕に襲い掛かってくる。

 痛い! 痛い! 怖いよ。助けてよ。痛いよ。怖いよ。

 どんどん意識が遠のく。でも、カラスがまた僕から離れた。僕は、力を振り絞って、少しだけ体を動かしてみる。

 どんどん意識が遠のく。でも、カラスがまた僕から離れた。僕は、力を振り絞って、少しだけ体を動かしてみる。

 あれ? 人間が、僕とカラスのとこに来て――――そして、カラスは僕から離れた。でも、僕の体は動かない。既に首にはカラスからの攻撃を受けている。

「何してんの? もう、助からない。今更そんなことするなら、さっき止めなければよかったんだよ。もう助からないなら糧になった方がいい」

 さっきとは違う人間の声が聞こえてきた。今僕のとこに来た人間に言っているみたいだ。

 別に、僕は糧になりたいわけじゃない。誰がそれを決めたの? 何で僕は糧にならなければいけないの? 助けてくれるなら、助けて—————でも、もう駄目だ————みんなの元へ帰りたい。

 そう、もう僕の首は曲がってしまっている――――助かるはずもない。

さようなら

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