続き物なので、この話より前のものを読んでいない方はそちらから読んでみてください。
「大丈夫?」
綺麗で涼やかな女の子の声が聞こえてきた。俺は閉じていた目を開ける。
俺の目の前には俺と同い年くらいの綺麗な女の子がいた。その子は俺のことを綺麗な目で心配そうに見ていた。
こんなに綺麗な子、初めて見た—————。
「ありがとう——————それに、大丈夫そうで良かった」
女の子は安心したように微笑んだ。あまりにも可愛いその微笑みに俺は視線を奪われた。
「あなた、とっても苦しそうにしていたのよ。だから、助けてあげようかと思ったの」
「あ、ああ————ありがとう」
あれ? この子は⁉ 俺の他には誰もいない、何もないここにどうしているんだ? さっきの奴は代わりにいなくなっているし————?
「フフッ、あなたが一番好みそうな姿で出てきてあげたのよ。私は、これでも結構人間と関わってきたの。でも、こんなに干渉される相手はやっぱり初めてなの。だから、とっても不思議」
俺の中で血の気が失せていくような感覚になっていく。こいつは誰だ?
「分かっているでしょ? だって、私たちの影響を強く受けたのだから————ああ、人間は臆病だし、自分たちの持ってしまった常識から離れているものを、なかなか受け入れられないのよね。だから、そのせいでとても視野が狭いのだけど」
ブワッと強い風が吹いてきた。まるで俺の足元の後ろの方から吹き抜けてみたような風で、俺の髪の毛も女の子が履いているスカートの裾も上にあがった。
「きゃー、見ないで」
そう、確かに女の子の足がかなり露わになってもう少しで下着が見えそうだった。でも、少しも見たいと思わない。だいたい、女の子の髪の毛は長いのに、スカートの裾だけが捲れて、髪の毛は少しも動かなかった。俺の髪の毛も身にまとっているものも、吹き上げてきた風の影響をこんなに受けたのに—————。
女の子は俺に向かってニッコリと笑ってきた。
「こういうの、あなたくらいの男の子は好きだと思ったのにな。髪の毛を乱れさせるのが嫌だったのよ。それより、見て、さっきより随分いいでしょ? せっかくだから、そこに座って話しましょう」
さっきまで何もなかったはずのこの場所は、緑豊かな木々が生い茂る公園みたいな場所に変わっていた。すぐ傍に白いテーブルと椅子も用意されていて、ティーカップまである。
女の子がそのテーブルの方へ歩き出すと、俺の足も勝手に動き出した。俺は別に座りたいとも思っていないのにだ。
「やめてくれ、俺の体を勝手に動かすのは!」
なんでだろう? 今までも訳のわからない奴が出てきたのに、こいつが一番怖い気がするのは??
「それはね? 私の姿があなたに近いからよ」
俺は、その言葉を聞きながら、俺の意思とは関係なくそいつの向かい側に座らされた。
「あなたは、私たちの影響を受けてしまったから、見た目が恐ろしいと人が思うような姿でも、あまり怖がらないわ。だからよ」
そいつは————もはや人間の女の子とも思えなくなったそいつは、相変わらずの笑顔で俺に語り掛けてくる。
「ねえ、問題を出します。私たちはあなたたち人間が必要とするものを必要とすると思いますか?」
こいつらは人間じゃない。でも、間違えを言ったらどうなるんだ?
「どうもならないわ。だから、安心して答えて」
そんなこと信じられないけど、今は答えなきゃいけない気がする。
「必要ない…………」
「正解で~す! でもブッブー不正解です」
こいつらは、意味が分からない————。
「教えてあげるね。あなたたちと違うから、私たちに必要なものなんてもちろんないわ。なーんにもない。でも、本当は全部が必要なの。でも、必要ではないから安心してね」
また、意味不明なことばかり言ってくる。
「仕方がないじゃない。あなたの言葉では、伝えられることが限られているのだから。1つ、教えてあげる。あなたの妹に会えたら、もう変化はないわ。ただ、今回のことの記憶は残るから」
「記憶が残る————俺が世界を破壊したって記憶か? お前は一瞬にしてここを変えられただろ? だったら元に戻してくれよ」
「うーん、でも、それは楽しくないからな。それに、それはできないことになっているの。まあ、本当はできるけど、やっぱりできないのよ。私たちを干渉するものは何もなかったけど、私たちに干渉されているものに関わってしまったから、私たちも今は干渉されているの」
「干渉? 意味が分からない—————」
「あなたは、私たちの影響を受けた。それのせいで私たちはある意味あなたに干渉されてしまっているの。直接的ではないけどね」
「で、でも、桃花に会えたらいいってことだろ?」
「まあね。さっき私がそう思ったから。私たちは何も決めないし感じない。この先のことを分かろうとすれば分かるけど、それもしないただ、今回は制約というものを作ってみたのよ。どういうものか知りたい?」
俺の目の前にいる奴は楽しそうに笑っている。だけど、まるで悪魔の笑いに見えてくる。
「失礼ね、悪魔だなんて。でも、悪魔も所詮は人間が作り出したもの。都合のいいものを作り出して、何かのせいにしている。とっても面白いけど、今の私はわざわざあなた好みの姿なのよ。まあ、あなたは今は他の人間と違ってしまったからね」
「そうだ! 俺の訳のわからない力はどうなる? 制御できるようになるのか?」
「さあね、どうでしょう。ただ、教えてあげるけど、妹に会ってもあなたがその力を僅かでも使ったり感じたりすれば同じことが起こる————もしかしたら、また元の時間と場所に戻るかもしれなわね」
やっぱりこいつは楽しそうに話す。ちっとも楽しい話でもないのにだ。少しだけ———そう、少しだけ力を制御できたら俺は無敵になれる気がしたけど、同じことを繰り返すのはごめんだ。
だいたい、こいつは————他の奴もそうだったけど————矛盾したことばかり言ってくる。何を信じていいのかもまるで分からない。
うっ!
急に苦しさを感じた。呼吸ができない。当たり前に何も考えなくてもできているはずの呼吸ができなくなっている。まるで、水中にいるみたいだ。それに、胸も痛い。
「フフッ、苦しいの?」
笑顔を崩さないこいつの顔が憎らしく感じる。だんだん、頭がボーっとしてくる。でも、嫌だこんな風に死ぬのは!
パンッと音がして、急に呼吸ができるようになった。胸の痛みも無くなった。
テーブルにあったティーカップが二つとも割れて粉々になっている。
「あーあ、これ、いいデザインだったのにな。綺麗なティーカップだったでしょ。それをこんなに粉々にするなんてさ」
どうやら、これは俺がやったらしい————いや、分かっている。これは俺の力だ。たぶん、こいつが俺の呼吸をできないようにして、それを俺が解いたと同時にこうなった。
「ね、例えばだけど、今みたいに苦しいことがあっても、力を使っちゃ駄目ってことよ」
悪魔め…………。
「それなら、俺の力を奪い取ればいいだろ? そうでなかったら、俺の力を封印するとかさ」
「それ、したいと思わないから。そもそも、何で私がそんなことをしなくちゃいけないの?」
「なっ!」
「そろそろ、いいかな—————」
そいつは、そう言ったかと思うと、急に俺の目の前から姿を消した。その数秒後にあたりの木々や目の前のテーブルに俺が座っている椅子まで消えたせいで、俺は地面に尻もちをついた。
「いてて————急に消えやがって」
俺は立ち上がって辺りを見回す。辺りには何もない。やっぱり俺が破壊したままだ。
辺りは夕暮れ時だった。もうすぐ日が沈んでしまう。さっきあの女がいたときはまだ明るかったはずなのに、急に時間が進んだかのように日が暮れようとしている。
「くそっ! 俺はどうすればいい?」
辺りには何もない。1つも建物がないし、植物すら生えていない。夜は少し肌寒い季節だが、もちろんベッドもなければ何か羽織るものすらない。
俺はとにかく歩き出した。もしかしたら、どこかに何かがあるかもしれない。建物はなくても、洞窟みたいなところとか? 漫画の読みすぎか?
しばらく歩いても、何も見えてこない。そもそも、ずっと果てしなく平らでしかない。山や丘みたいなものも、川すらない。いや、干上がっている川があったような場所はあった。でも、水はそこにはなかった。
「このまま、俺は飢え死にするのを待つしかないのか? でも、桃花に会えると言っていたのに、嘘だったのか?」
そのうちに、どれくらの時間や距離を歩いたのかすら、分からなくなってきていた。すっかり辺りは暗くなっていて、空に輝く星の光しかなかった。
「疲れた…………もう、歩きたくない」
不思議なことに、何も食べず飲まずにいるのに、渇きを感じなかった。トイレにも行きたくならない。でも、とにかく疲れた俺は、何もないその場所で丸まって寝転がった。
この話は、「僕の心臓が動いていることと、ラウラスに逢えて変わったこと」というkindleで出版した小説の世界観を現した小説です。kindleで出版したものとはまた別の雰囲気での小説にはなっていると思います。
「僕の心臓が動いていることと、ラウラスに逢えて変わったこと」https://00m.in/Mfhno
またこの続きを1週間後あたりに出す予定です。よろしくお願いします。
