ノイズの向こうから

ホラー

ジジッ、ガッ、ガガッ、ジーピー。ああ、嫌な機械の雑音が聞こえる。これは、美久から誕プレにもらったラジオだ。

 俺の彼女の美久は、背中に人の顔の様なできものができて、それを苦に、学校の校舎から飛び降り自殺をした。そのできものを見た俺は、美久と関わらない様にした。結局自殺をしたから、それでよかったのかもしれない。

 ガガガ、ガガガ、ピー。 

 適当に話を合わせて、レトロなラジオが、かっこいいなんて言わなければ良かった。そうすれば、美久もこんなラジオを探してくることはなかったはずだ。

 ラジオの電源をオフにする。そのままクローゼットの中に突っ込む。そうして、ベッドにもぐりこむ。

 少しして、どうにかウトウトしかける。ああ、このまま何とか眠れるかもしれない。今日は変な夢を見たくない。

 ガガガ、ガガガ、ジジッ、ピー。

 また、ラジオの雑音がしてくる。でも、それは、あまり聞いたことのない音楽に変わった。音質はすこぶる悪い。捨ててもいつの間にか戻ってくるこのラジオを、どうしたらいいのか俺は分からない。

 ガガガ、ピー、ガガッ。

 音楽に混ざって、雑音も聞こえ始める。俺はうつぶせになって、頭に枕を被せて両手で押さえる。

 ジジジッ、れ、ガガッ、漣、ピー、ジジッ、あ、ピー、あい、ガガガ、あいたい———ガガガ。

「———み、美久————」

 確かに美久の声だった。俺は枕をとって、そろそろと部屋の中を見渡してみる。

 俺の机の上には、さっき確かにクローゼットに突っ込んだラジオがある。

 もしかして、これは美久の仕業か? 俺のことを連れていくつもりか?

「美久、お前はもう死んでいるんだ。俺のことは放っておいてくれ。頼む」

 ラジオの音楽が鳴りやんだ。部屋の中に静寂が訪れる。

 ガガガ、漣、ピー、ジジッ、た、ピー、助けて、ジジジッ。

 俺は、ラジオを持って、壁に投げつけた。ラジオはアンテナと何かの蓋みたいなのが取れて、床に転がった。それを確認すると、頭が急にクラっとした。

あ、赤い………周り全部が赤い……………。

 ツンっと、少しかび臭いような、鉄臭いような、空気の流れが鼻腔に届いてきた。

「こ、これは血か̶̶̶—」

 いったい誰の? 

「漣」

 はつらつとした甲高い明るい声が、脳裏に響いてきた。

 俺は少し離れた場所に、美来の姿を見つけた。柔らかい笑顔を向けてきている。

「美久———」

 あ、あれ? たった今、そこにいたのに。

 嫌な冷や汗が、背中を伝ってくる。これがなんなのか分からない。でも————足元が何か変だ————。

「み、美久…………」

 血まみれの美久が、俺の足にしがみついている。

「た、助————け——て—————漣——————」

 それは、いつもの美久の声とは思えないような、掠れているような声だった。

「み、美久—————お、俺———」

 身体がまったく動かない。

周りは少しぼやけて見える。この赤い血は、美久の血————?

 俺の手足も、美久の血で染まっている。

 いや、違……う。こ……れ……は………。

「漣————逃げて—————」

 耳元で美久の声がした。逃げるって⁈ いったい何から? 何処から?

 俺が目を覚ました時、俺の机の上にはラジオがあって、やっぱり知らない音楽がラジオから流れていた。

 誰かが、部屋のドアをノックしてきた。

「入っていいよ」

 俺がそう答えても、誰も入ってこない。それなのに、再びノックをしてくる。俺は仕方がないから、ドアを開けようとする。

 ガガガ、ピーガガガ、ガガッ、ピー、ジジジッ。

「漣————逃げて—————」

 美久の声が聞こえる。俺は後ろを振り返る。

「ここは—————⁈」

 部屋のドアを開けようとしていたはずだ。部屋にいたはずなのに、周り全体が白っぽくうすぼやけて見える。ここは、俺の学校だ。俺は、校舎の前に突っ立っている。

「————漣——————」

 甲高い明るい声が、俺の耳元で聞こえた。美久の声だ。まるで耳元で呼ばれたときの様なのに、美久はそこにはいない。

 何かが、目の前を通り過ぎていった。そう、上から何かが————そして、俺の足元にその何かは倒れている。

口元からなのか、他の何処かからなのか、よく分からないけど、徐々に赤い液体が、その身体の下の方へ、広がりを見せていった。

 ガガッガガガ、ピー、ガガガ。

 機械の雑音が耳に響いてくる。本当に嫌な音だ。耳を塞ぎたくなる。

「れ———漣————会いた————かった—————」

 

 ———————美久———————美久の声が耳に響いてくる—————。悪かった、頼むから、もう許してくれ—————。

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小説書くおおかみ

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